抄録
食欲、味覚、摂食機能あるいは食物を含む対象への認知機能低下は、加齢、疾病によって高齢者に起きる変化として認識されるが、使用される薬剤の副作用としては見逃されやすい。高齢者における多剤、多系統の使用、さらに個々の情報の複雑さが代表的要因であることは疑う余地もないが、医療・介護スタッフによる対面あるいは現場での情報収集にも課題があるように思われる。そもそも、高齢者では、食生活上の不具合が発端となりQOL全般に影響しやすい。つまり、「食事摂取量の減少→低栄養→ (疾病の誘因) →身体・精神活動の低下→介護度上昇」の図式で、薬剤に起因する低栄養が、生活機能を、しかも不可逆的に悪化させうる。「原因不明の食欲低下は、まずは薬剤を疑え」と言われ、栄養アセスメントに携わる専門職には、効率よく必要な薬剤知識を身につけること、さらに副作用徴候をも念頭に暮らしぶりに細かく気配り、目配りする意識づけが求められよう。ライフスパンでのQOL維持・向上を栄養ケアの命題と考えるなら、なおさらである。