2021 年 56 巻 4 号 p. 563-566
ヒトは毎分5〜50リットルもの空気を呼吸器で換気している.私たちが吸い込んだ空気は1本の気管に集約され,そこから23回分岐する気管支で振り分けられ,3億個あるといわれる肺胞に到達する.呼吸器のもつユニークで精密な組織形態は遺伝子にプログラムされていると考えられ,古くから学者たちを魅了し続けてきた.また気道上皮細胞の異常は多様な疾患とも深く関わっている.疾患に伴う組織の病変を理解するためには,そもそも正常な呼吸器組織がいかにして構築,維持されているのか理解しなければいけない.すなわち,呼吸器の起源,正確な組織形成といった発生学的な知識の蓄積が一つのアプローチになる.また,最近では幹細胞の知識を生かした呼吸器オルガノイド培養技術の開発により,微小呼吸器組織の試験管内再構築を試みる研究が盛んであるが,呼吸器オルガノイドの開発には発生学研究で得られた多くの成長因子の知識が応用されている.