2021 年 57 巻 2 号 p. 390-394
【症例】31歳,2妊1産.妊娠30週より塩酸リトドリンを服用していた.妊娠32週に口渇感と倦怠感で前医受診したが異常所見を認めず,妊娠35週,症状増悪のため前医受診し肝・腎機能障害を認め,当院へ母体搬送となった.尿浸透圧126mOsm/Kg,血中浸透圧301mOsm/Kgと高浸透圧であった.頭部MRIではT1強調画像で下垂体後葉の高信号消失を認め,尿崩症と診断し,同日よりデスモプレシンの点鼻を開始した.投与開始2日後も症状改善なく,羊水過少,肝機能障害増悪あり,分娩とした.分娩後速やかに尿量は減少し肝・腎機能の改善を認め,デスモプレシン点鼻薬は中止した.
【結語】一過性尿崩症は,肝でのバソプレシナーゼ(ADHase)の代謝が低下し,バソプレシンが分解されることによると考えられている.本症例では,デスモプレシンによる改善が乏しく,脱水による肝機能障害の悪化を認め,母体の苦痛緩和のため妊娠終結を選択した.