日本周産期・新生児医学会雑誌
Online ISSN : 2435-4996
Print ISSN : 1348-964X
57 巻, 2 号
日本周産期・新生児医学会雑誌
選択された号の論文の30件中1~30を表示しています
レビュー
  • 佐藤 義朗
    2021 年 57 巻 2 号 p. 234-242
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/06
    ジャーナル フリー

     Stem cell therapy has brought hope for patients with various diseases for which no adequate treatments are available. Stem cell therapy has many strengths and advantages. Some stem cells have the potential to replace injured cells and regenerate on their own. In addition, stem cells produce a large number of growth factors that act on a variety of mechanisms to produce therapeutic effects. Stem cells have the potential to home to the location where they are needed, i.e., stem cells can move to or around a lesion, even when they are administered intravenously. Moreover, stem cells act according to their situation and location. Stem cell therapy has not only anti-inflammatory and antiapoptotic effects but also regenerative effects, including the ability to enhance angiogenesis and neurogenesis. Therefore, there is more possibility for stem cell therapy to be effective when administered even at later time point. Offering these strengths and advantages, stem cell therapy may be able to provide therapeutic effects that are not provided by conventional drugs.

     In the development of treatments for hypoxic-ischemic encephalopathy(HIE), several safety and ethical concerns are associated with the use of embryonic stem cells or neural stem cells. However, after the confirmation of their efficacy and safety via animal experiments, treatments using cord blood stem cells and Muse cells have started undergoing clinical trials. If treatments based on cell formulation are developed, which can be administered intravenously, it will become possible to treat many neonates with HIE.

     In the development of treatments for cerebral palsy, clinical trials are ahead of basic research. Several clinical trials have already been reported, and their findings have mainly shown therapeutic effects related to motor skills. Regarding chronic lung diseases, many basic experimental results have been reported and clinical trials are also being conducted. In addition, clinical trials for the treatment of intraventricular hemorrhage are currently underway. Furthermore, animal experiments have been conducted in order to develop treatments for necrotizing enterocolitis, periventricular leukomalacia, and fetal growth restriction. Subsequently, additional future developments are expected in stem cell therapy for various diseases.

総説
  • 久保 のぞみ, 最上 晴太, 万代 昌紀, 近藤 英治
    2021 年 57 巻 2 号 p. 243-250
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/06
    ジャーナル フリー

     出生児の細菌叢形成は,母体細菌叢,胎生期の環境,分娩方法などに影響される.さらに抗生剤の使用,食事,母乳栄養,環境など出生後の因子が児の細菌叢をかたち作る.児の細菌叢は免疫系の形成に深くかかわり,正常な細菌叢が形成されない場合,喘息,炎症性腸疾患,自己免疫疾患などの発症リスクを増加させる.近年,新生児の正常な細菌叢の形成を目的とした,母体の腟分泌物の新生児への移植などが試みられ,アレルギー疾患などの新たな予防法として期待されている.

原著
  • 永光 今日香, 坂井 淳彦, 蜂須賀 信孝, 佐藤 由佳, 城戸 咲, 日高 庸博, 加藤 聖子
    2021 年 57 巻 2 号 p. 251-256
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/06
    ジャーナル フリー

     常位胎盤早期剥離(以下,早剥)は周産期医療においてその管理と対応が最も重要な疾患の一つであるが,超早産期での発症は稀であり,その知見は十分でない.本研究では当院で経験した妊娠22週から妊娠28週未満の超早産期発症早剥例の臨床像を明らかにすることを目的とし,診療録より後方視的に検討を行った.対象7例の早剥発症週数の中央値は妊娠26週1日で,全例で母体高齢,妊娠高血圧症候群,絨毛膜羊膜炎といった既知の早剥のリスク因子のいずれかを有していた.特に組織学的絨毛膜羊膜炎の診断に至ったものが3例含まれていた.母体死亡例はなかったが,児の予後は胎児死亡が1例,新生児死亡が1例で,後遺症なき生存は2例のみであった.本検討において,超早産期早剥は急性炎症を背景とした発症が特徴的であった.超早産期に前期破水や切迫早産の管理を行う上で,早剥の発症は念頭に置く必要がある.また,超早産期早剥の児の予後は不良である.

  • 山本 瑠美子, 林 周作, 光田 信明, 石井 桂介
    2021 年 57 巻 2 号 p. 257-262
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/06
    ジャーナル フリー

     目的:分娩直前の遷延一過性徐脈または胎児徐脈(以下,直前徐脈と呼称)の新生児アシデミアに対する診断特性を明らかにし,胎児心拍数陣痛図所見の付加による診断特性の変化を検討する.

     方法:当院2年間の正期産単胎症例を対象とし,分娩30分前までの直前徐脈の新生児アシデミア(臍帯血pH<7.2)に対する診断特性を算出した.さらに多変量ロジスティック回帰分析で新生児アシデミアに関連する胎児心拍数陣痛図所見を抽出し,その所見を加えた場合の診断特性も算出した.

     結果:解析対象2,480例中362例に直前徐脈を認め,直前徐脈の新生児アシデミアに対する陽性的中率は17.7%だった.直前徐脈前の頻脈とレベル≧4,直前徐脈の時間≧6分と細変動減少が新生児アシデミアと関連し,これらの付加により陽性的中率は上昇した.

     結語:直前徐脈の新生児アシデミアに対する陽性的中率は胎児心拍数陣痛図所見を加えることにより向上した.

  • 當山 真紀, 崎原 徹裕
    2021 年 57 巻 2 号 p. 263-268
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/06
    ジャーナル フリー

     2018年1月〜2019年12月の出生児(Development dataset,DD)で呼吸障害のリスク因子から予測ツールを作成し,予測精度を胎児機能不全に伴う急速遂娩(NRFS急遂娩)の有無による予測と比較した.2020年1〜12月の出生児(Validation dataset,VD)で同ツールの予測精度を検証した.DD 1,209例(呼吸障害73例)で呼吸障害に関連したLate term,帝王切開,NRFS急遂娩,臍帯血pH < 7.12から作成した予測ツールの精度(AUC 0.69;95% CI 0.63-0.76)はNRFS急遂娩の有無による予測の精度と同等以上で,VD 649例(呼吸障害44例)でも同様であった(AUC 0.66;0.57-0.74).一般市中病院における新生児呼吸障害に対し,Late term,帝王切開,NRFS急遂娩,臍帯血pHを用いた予測ツールは有用である.

  • 石田 宗司, 中西 秀彦, 山口 綾乃, 大岡 麻理, 釼持 学
    2021 年 57 巻 2 号 p. 269-274
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/06
    ジャーナル フリー

     早産児動脈管開存症(PDA)の外科治療後に循環不全を来すpost ligation cardiac syndrome(PLCS)と同様の病態が内科治療に起こるかを検討した.対象は2016年から2020年までの26週未満の32例.在胎週数は25週(中央値),出生体重は639g(中央値).PDA閉鎖後の循環不全は8例(インドメタシン予防投与5例,インドメタシン治療投与1例,外科治療2例)でvasoactive inotropic scoreは6点から10点に上昇した.循環不全例では収縮期血圧(41→34mmHg vs 44→44mmHg,P < 0.01)は低下,前負荷の指標のCTR(50→43% vs 52→43%)とLVIDd(10.8→10mm vs 10.4→9.7mm)では変化がない一方,心収縮能のLVEF(71→54% vs 75→72%,P < 0.01)は低下した.PLCS同様の病態を内科治療にも認め,原因は心ポンプ不全であった.

  • 竹内 麻優子, 米田 徳子, 津田 さやか, 塩﨑 有宏, 中島 彰俊, 米田 哲
    2021 年 57 巻 2 号 p. 275-281
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/06
    ジャーナル フリー

     [目的]心疾患合併妊娠は,本邦の総妊娠数の2-3%を占める.医療の進歩に伴い成人先天性心疾患は増加しており,今後,心疾患合併妊娠の管理を行う機会は増加すると予想される.今回,当院で経験した心疾患合併妊娠の分娩転帰をまとめ,妊娠管理における注意点を明らかにすることを目的とした.[方法]過去10年間の当院における心疾患合併妊娠を対象とし,母体背景,分娩転帰,産科合併症を生じた症例について検討した.[結果]心疾患合併妊娠32分娩のうち,産科合併症を6分娩(18.7%)認め,そのうち4分娩に治療を要する切迫早産を認めた.早産は6分娩(18.7%)で,硫酸マグネシウム・ステロイドによる治療後に右心不全を発症し妊娠30週で早産となった症例があった.[考察]切迫早産治療に使用する薬剤は循環動態に影響を及ぼしうるため,原疾患や残存病変,副作用を考慮して選択する必要があり,慎重な妊娠管理を要する.

  • 田口 奈緒, 荒木 智子, 中島 文香, 片岡 裕貴
    2021 年 57 巻 2 号 p. 282-287
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/06
    ジャーナル フリー

     妊娠期における親密なパートナーからの暴力(Intimate partner violence:以下IPVと略)と産科合併症との関連について検討を行った.2019年2月から7月までに受診した妊婦のうち切迫早産や前期破水,胎児発育不全といった産科合併症のために母体胎児集中治療室に入院した69名と外来健診者355名を比較した.スクリーニングには女性に対する暴力スクリーニング尺度(VAWS)を用い,被害の陽性率は入院群では36.4%,外来健診群では23.4%と有意差を認めた(p=0.027).多変量解析において出産回数,全般性不安障害,早産既往,喫煙の有無で調整した後の入院群と外来健診群ではIPVは有意な単独要因として残らなかった.産科合併症のために入院した妊婦の3分の1がIPVの可能性があったという今回の結果から,妊婦および胎児の心身の健康上,潜在的なIPVを発見するためにスクリーニングを行うことは重要であると考えられた.

  • 吉尾 博之, 野田 清史, 宮田 一平, 有道 順子, 入江 寿美代, 白石 淳, 中務 陽子, 東田 太郎, 山縣 威日, 吉岡 宏記, ...
    2021 年 57 巻 2 号 p. 288-294
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/06
    ジャーナル フリー

     【目的】母乳育児を啓発,普及させるための一環として,母乳育児に関して育児未経験の若年者を対象としたアンケートによる意識調査を実施した.

     【対象と方法】中国地方4県(岡山県,広島県,山口県,島根県),14施設の中高生,大学生,看護学校生(大学を含む)2,971名を対象に,無記名による母乳育児に関するアンケート調査を行い,最終的に2,742名(女性:1,949名,男性:793名,年齢範囲:14〜24歳,平均値18.2歳,中央値18歳)について解析した.調査時期は,2018年7月から2019年3月までの9カ月間に行った.また今回は,年齢を18〜22歳に調整した看護系学生(1,138名)と非看護系学生(516名)についても比較検討した.統計解析はR統計解析ソフトを用いた.

     【結果】乳児の育児法として母乳か人工乳では一般的に良いと思うのは,母乳,人工乳,どちらでもよい,分からないと回答した割合(%)は,それぞれ59.5,1.4,28,11.1%であった.男女別では母乳と回答した割合は,男性46.9%,女性64.7%(p < 0.05)であったが,男女とも約3割はどちらでもよいという回答であった.また自身が(男性の場合はパートナーに)将来母乳育児をしたい(して欲しい)と答えたのは,女性81.8%,男性61.8%(p < 0.05)であった.母乳育児をしたいと思う理由で最も多かったのは,男女とも乳児によいと思うからであった.母乳育児をしたくない理由で最も多かったのは,女性では,母親が仕事をしながら母乳育児をするのは難しいと思うから,男性では,よく分からないがそのほうがよさそうだからであった.対象年齢を18〜22歳に限定した看護系と非看護系学生の比較では,母乳が良いと回答した割合はそれぞれ70.3%,64.6%(p < 0.05)であった.看護系学生で,人工乳が良いと回答した割合は年齢とともに減少するが,どちらでもよいと回答した割合は約25%で大きな変動はなかった.

     【結論】今回の調査では多くの若年者は,乳児には人工乳より母乳育児がよいと直感的に思っていることが推察されたが,どちらでもよいと思っている若年者も少なからず認められた.母乳育児を推進していくためには,科学的エビデンスを基盤とした母乳育児のメリットを啓発していくことは重要であるが,母乳育児を安心してできる職場環境の改善や母乳育児への不安を適切に軽減していくための支援者の育成が必要と考えられる.

  • 土橋 智弥, 宮脇 正和, 垣本 信幸, 熊谷 健, 鈴木 啓之
    2021 年 57 巻 2 号 p. 295-300
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/06
    ジャーナル フリー

     本邦は世界でも有数のヨウ素摂取過剰国である.新生児期の過剰なヨウ素摂取は甲状腺機能に対して有害性をもつことが知られているが,甲状腺機能の未熟な低出生体重児のヨウ素摂取状況に関する報告は少ない.当院の経腸管栄養が安定した低出生体重児37例(中央値:日齢16,出生体重1,691g)のヨウ素摂取量を算出し後方視的に検討した.尿中ヨウ素濃度は中央値300μg/L,ヨウ素摂取量は中央値43.8μg/dayとヨウ素推奨摂取量以下であった.一方,6例が耐容上限量以上,その中でもヨウ素摂取量が1,000μg/dayを超えた3例全例で甲状腺機能異常を認めた.栄養方法では母乳摂取量が多い児でヨウ素摂取量が多い傾向があった.母乳は貴重なヨウ素摂取源だが,母乳のヨウ素含有量には個人差があり,中には極端に高い症例があるため,尿中ヨウ素濃度から児のヨウ素摂取状態を把握することは重要である.

  • 津村 圭介, 小野 剛史, 品川 貴章, 宗 邦夫, 大島 侑子, 津田 聡子, 大隈 香奈, 野見山 亮
    2021 年 57 巻 2 号 p. 301-308
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/06
    ジャーナル フリー

     【目的】早産期前期破水(PPROM)における抗菌薬投与前後の羊水中細菌のABPC低感受性菌の検出頻度と菌種および抗菌薬投与開始から出現までの期間を明らかにすること.【方法】PPROM(妊娠22-36週)診断時に羊水培養陽性であった抗菌薬投与前群(23例29菌株)とABPC+AMPC+CAM(AZM)投与後に羊水細菌培養が陽性化した抗菌薬投与後群(8例11菌株)を検討した.マイコプラズマ科は除いた.【結果】ABPC低感受性菌は,抗菌薬投与前群でグラム陰性桿菌3例,真菌2例,MRSA1例を認め6/25菌株(24%),抗菌薬投与後群では10/11菌株(91%)に認め,抗菌薬投与1日目より出現していた.【結論】PPROMにおいて発症時のABPC投与はグラム陰性桿菌・真菌・マイコプラズマ科以外の菌株に有効と思われるが,抗菌薬投与後に新たに出現した菌株は,早期でもABPC低感受性の可能性が高い.

  • 木野 民奈, 丸山 康世, 中川 沙綾子, 山本 賢史, 中島 文香, 小河原 由貴, 平吹 知雄, 宮城 悦子
    2021 年 57 巻 2 号 p. 309-314
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/06
    ジャーナル フリー

     当院で分娩した妊産婦の風疹抗体保有率と産後の風疹ワクチン接種状況について,後方視的研究を行ったため報告する.2014年1月から2017年12月までに生産児を分娩した妊産婦3,322名を対象とした.妊娠初期の血液検査で風疹抗体価HI ≦ 16倍を低抗体価とし,経産回数や不妊治療の有無,年齢別に,低抗体価の割合と産褥入院中の風疹ワクチン接種の有無を検討した.低抗体価の妊産婦の割合は31.5%,その中で風疹ワクチン接種率は43.6%であった.35歳未満の妊産婦に比べ,35歳以上の妊産婦は抗体保有率が高く,年齢と共に上昇した.また,初産婦は経産婦に比べワクチン接種率が高かった.さらに,不妊治療後の妊産婦でも低抗体価の妊産婦が一定数存在した.風疹・先天性風疹症候群予防のための妊産婦における風疹ワクチン接種率は依然として低く,官民一体となった施策が必要である.

  • 本間 千夏, 西村 陽子, 古谷 菜摘, 倉崎 昭子, 近藤 春裕, 長谷川 潤一, 鈴木 直
    2021 年 57 巻 2 号 p. 315-320
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/06
    ジャーナル フリー

     【目的】早産期と正期産の時期で,出血性ショックのなりやすさに違いがあるかどうかを明らかにすること.

     【方法】2011年1月-2020年3月に,当院で施行した単胎の帝王切開例で,術中出血量が2,000mL以上であったものを対象にcase-control studyを施行した.帝王切開に続き子宮全摘出を施行した症例は除いた.対象を妊娠35週未満,35週以降の2群に分けた.診療録より,帝切の適応,バイタルの推移,輸血量などのデータを収集し,比較検討した.

     【結果】総分娩数6,194例中,帝王切開は2, 361例あり,単胎で子宮全摘出施行例を除いた出血2,000mL以上の症例は64例(1%)あった.35週未満群は12例(19%)であった.35週未満群と35週以降群で,それぞれ,出血量の中央値(範囲)は2,466(2,010-4,839)mL,2,391(2,013-4,320)mL(ns),最高Shock indexは1.1(0.7-1.8),1.0(0.7-2)(ns),最高心拍数は100(70-145)bpm,100(70-140)bpm,最低収縮期血圧は90(70-110)mmHg,90(60-120)mmHg,胎盤娩出からSI > 1になるまでの時間は12.5(0-90)分,5(0-75)分(ns),SI >1になるまでの出血量1, 093(210-1,900)mL,957(320-3,150)mL(ns),SI > 1になった後SI < 1に回復するまでの時間17.5(0-90)分,7.5(0-75)分(p=0.010)であった.

     【結論】本検討の対象のうち妊娠35週以前,以後で,出血量,バイタルサイン異常値の分布や,SI > 1になるまでの時間に違いはなかったが,妊娠35週未満の群の方がひとたびショックバイタルになると,バイタルサインが正常に戻るまでの時間を要することが示唆された.

  • 保志 ゆりか, 杉江 学, 今村 公俊, 清水 純一, 近藤 乾
    2021 年 57 巻 2 号 p. 321-325
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/06
    ジャーナル フリー

     CLDは早産児の長期予後に大きく影響する重要な疾患である.一般的に日齢28や修正36週における酸素投与を含む呼吸補助の必要性がCLD診断の根拠とされている.一方でCLDの診断基準に該当しても日齢とともに呼吸障害が軽減し呼吸補助が不要になる早産児もいる.

     今回我々は当院NICUで入院管理した在胎32週以下の早産児について非侵襲的呼吸補助(NRS:持続陽圧換気,ハイフローカヌラ,酸素投与)の離脱時期を検討し現在のCLD診断時期との関係について比較を行った.

     研究結果で在胎週数とNRS離脱時期の間に負の相関を認めたが,相関の程度は在胎週数と日齢(R=0.82,R2=0.67)が強く,修正週数との相関は小さかった(R=0.45,R2=0.20).修正36週以降もNRSを要した症例の半数以上が修正42週までにNRSから離脱できた.このことから,現在のCLDの診断基準はCLD以外の原因による呼吸障害を包括する危険性があると考えられた.

  • 豊吉 泰典, 亀田 芙蓉
    2021 年 57 巻 2 号 p. 326-333
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/06
    ジャーナル フリー

     背景:NCPR講習会を看護学生に対して実施している報告例は少ない.

     目的:看護学生に実施したNCPR一次コース講習会の実践報告とともに,アンケートを基に今後の看護基礎教育における救命処置教育のあり方を検討する.

     方法:看護専門学校看護学科学生3・4年生を対象として講習会を実施し,講習会前後にアンケートを行った.

     結果:アンケートによりNCPR一次コース講習会の受講動機,受講希望時期,講義内容理解度等のデータを得た.

     考察:看護基礎教育時に,救命処置教育の一環としてNCPR講習会を始めとする講習会を取り入れることは,学生に学習へのモチベーションを与え,学習に対する向上心を育む効果があると考える.

  • 米田 文明, 瑞木 匡, 小松 博史
    2021 年 57 巻 2 号 p. 334-338
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/06
    ジャーナル フリー

     心電図モニタとパルスオキシメータを用いて算出される脈波伝播時間(以下,PWTT)は,非侵襲的な血圧(以下,BP)モニタリングとして有用であることが知られているが,新生児での有効性については明らかでない.本研究は新生児におけるPWTTとBPの関係性について調査することを目的とした.当院NICUに入院し,観血的BP値とPWTT値が安定して測定できた17例を対象とした.PWTT値とBP値の5分おきの差分(⊿PWTTと⊿BP)を算出したところ,⊿PWTTと⊿BPには有意に負の相関を認めた.さらにBP変動を予測するための⊿PWTTの至適なカットオフ値を求めるため,ROC解析を行った.収縮期BPが+10mmHg変動した時のPWTT変化のカットオフ値は-7ms〔Area under the curve(以下,AUC)=0.939,95% CI=0.873-1.0,感度=94%,特異度=91%〕で,-10mmHgで+ 9ms(AUC=0.862,95% CI=0.647-1.0,感度=97%,特異度=75%)であった.本研究から,NICUにおける非侵襲的かつ持続的なBP監視方法として,PWTTが有効であることが示唆された.

  • 浅野 史男, 谷垣 伸治, 北村 亜也, 松島 実穂, 小林 陽一
    2021 年 57 巻 2 号 p. 339-342
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/06
    ジャーナル フリー

     子宮筋腫合併妊娠の頻度は全妊娠の0.3-2.6%といわれており,妊娠中に一過性の変性痛がおこり鎮痛が必要となることがある.妊婦の高齢化に伴い,今後,その頻度はさらに増えていくと予想され,妊娠中の子宮筋腫変性痛のリスク因子を明らかにするため後方視的検討を行った.2015年4月〜2019年6月に杏林大学医学部付属病院で妊娠管理を行った子宮筋腫合併妊娠の妊婦(109例)を対象とした. 母体背景,子宮筋腫の所見,治療を診療録より後方視的に抽出し,対象をI群:治療なし(無症状),II群:治療あり・入院なし(外来で経口鎮痛薬を処方),III群:入院あり(鎮痛薬を点滴静注)の3群に分け,各項目について3群間で比較した.結果はI群と比較してII群・III群は有意に漿膜下筋腫の頻度が高く(p < 0.001),漿膜下筋腫をもつことが子宮筋腫変性痛の独立したリスク因子として抽出された.

症例報告
  • 山田 星利奈, 田村 賢太郎, 長岡 貢秀, 猪又 智実, 川﨑 裕香子, 牧本 優美, 吉田 丈俊
    2021 年 57 巻 2 号 p. 343-347
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/06
    ジャーナル フリー

     先天性皮膚カンジダ症(congenital cutaneous candidiasis:CCC)は,超早産児では血流感染をきたし重症化するが,late preterm以降の児では皮膚症状のみで軽快する例があり,治療の適応や方法は議論を要する.症例は在胎34週6日,体重2, 358g,経腟分娩で出生し,軽度の呼吸障害があった.出生時より全身に紅斑性丘疹がみられたが次第に消退した.日齢3から呼吸状態は悪化し,右上肺野に浸潤影が出現した.入院時の胃液・胎脂培養と母体の頸管培養からCandida albicansを検出し真菌感染症を疑った.臍帯は肉眼的に黄白色斑がみられた.皮疹部のKOH検鏡で仮性菌糸を確認しCCCと診断した.血液・尿培養は陰性で,菌が直接肺に伝播したカンジダ肺炎と判断した.抗真菌薬全身投与後より呼吸状態は改善した.出生時に皮疹があれば真菌感染症を鑑別すること,CCCと診断されればlate preterm以降の児でも治療を考慮することが重要である.

  • 中西 純子, 友滝 清一, 本倉 浩嗣, 荒木 亮佑, 友邊 雄太郎, 山内 建, 花岡 信太朗, 友滝 寛子, 岩永 甲午郎, 丹羽 房子 ...
    2021 年 57 巻 2 号 p. 348-352
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/06
    ジャーナル フリー

     心嚢気腫は新生児のエアリークの中で非常に稀な病態である.自然軽快する例もあるが,心タンポナーデに至れば,死亡率は非常に高い.心嚢気腫から心タンポナーデを来し,緊急心嚢ドレナージによって救命しえた超低出生体重児を経験した.症例は在胎24週6日,体重667gの女児.出生直後に左気胸を認め胸腔ドレナージを施行し,心嚢気腫も合併していたが自然吸収され徐々に軽快していた.しかし日齢2に心嚢気腫が増悪し心タンポナーデに至った.心静止に至り,胸骨圧迫・アドレナリン投与を行ったが回復せず,緊急心嚢ドレナージを施行し自己心拍再開した.日齢33に心嚢ドレーンを抜去,修正46週に退院となった.本症例では,急変後すぐに蘇生を開始し,緊急心嚢ドレナージによって心タンポナーデを解除できたことが,救命に繋がったと思われる.心嚢気腫発症時には急激に増悪し心タンポナーデに至る可能性を常に念頭に置いておく必要がある.

  • 渡邊 千裕, 戸川 泰子, 杉本 真里, 戸川 貴夫, 杉浦 崇浩, 村松 幹司
    2021 年 57 巻 2 号 p. 353-359
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/06
    ジャーナル フリー

     症例は在胎35週5日,一絨毛膜二羊膜性双胎の第1子として出生の男児.胎児期に心不全兆候の指摘なし.生後早期より循環障害を呈し双胎間輸血症候群受血児の疑いで搬送された.心不全と肺高血圧症に対する急性期治療にて循環不全から脱し小康状態となった後も,右心系の容量負荷所見と下行大動脈での拡張期逆流が遷延した.超音波検査で拡張した左総頸動脈と左頭蓋底の異常血流を認め,頭部画像検査で硬膜動静脈瘻と診断した.徐々に心不全が増悪し,日齢15で脳血管撮影下に主要流入血管である左外頸動脈の結紮遮断を行った.体重増加を待って血管内治療を行い,短絡路の完全遮断を得て再発なく経過している.現在8歳だが神経脱落症状を認めず,合併症の指摘のない双胎第2子と同程度の発達である.遷延する心不全症例では短絡量の多い頭蓋内動静脈短絡性疾患も考慮し,注意深く身体診察や画像検査を行うことが診断および治療法決定に有用だと考えられた.

  • 高橋 唯, 宮崎 恭平, 佐藤 賢一, 柏原 祥曜, 知識 美奈, 清水 裕美, 小笠原 啓, 郷 勇人, 佐藤 真紀, 桃井 伸緒
    2021 年 57 巻 2 号 p. 360-365
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/06
    ジャーナル フリー

     神経皮膚黒色症は,皮膚および中枢神経にメラノサイトの増殖をきたす稀な先天性疾患であり,神経症状を発症すると予後不良である.今回,出生時に巨大色素性母斑を認めた日齢4の男児例を経験した.扁桃体を含む脳MRI T1強調像における高信号病変から中枢神経のメラノサイト増殖が示唆され,血清5-S-cysteinyldopa(5-S-CD)の上昇を確認し神経皮膚黒色症と診断した.本疾患の確定診断には中枢神経における病理所見や神経症状の合併が必要であるが,最近の報告を見ると,巨大色素性母斑と頭部MRI所見のみで診断されている場合が多い.頭部MRI所見に加えて,中枢神経におけるメラノサイト増殖を示唆する髄液中メラノサイトあるいは,髄液中または血清中5-S-CD高値が証明されれば,診断の的確性が向上すると考えた.新生児期に臨床診断することで,家族への精神的サポートや中枢神経病変に対する早期介入が可能になる.

  • 大塚 直紀, 勅使河原 利哉, 市田 啓佑, 江坂 有希恵, 古井 俊光
    2021 年 57 巻 2 号 p. 366-370
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/06
    ジャーナル フリー

     劇症型A群レンサ球菌感染症は突発的に発症し,急速にショック及び壊死性軟部組織炎を含む多臓器不全に進行するA群レンサ球菌の敗血症である.分娩型は母体死亡の原因となりうる疾患であり,本邦でも多数の母体死亡例が報告されている.本症例において診察時には母体は産科的DICとショック状態であった.分娩された児は死亡しており,全身に著明な表皮剥脱所見を認めた.A群レンサ球菌は扁桃炎・咽頭炎・軟部組織炎・筋炎の起因菌であるが,外毒素の産生により全身に皮疹を生じ表皮剥脱を起こすことが知られている.新生児の皮膚所見より感染症の存在を疑うことができたため,早期よりアンピシリン・クリンダマイシンの投与が開始された.本症の報告例では母体救命例は少ないが,集学的治療に加えて早期からの抗生剤投与により母体救命に至った.母体救命に成功した劇症型A群レンサ球菌感染症の1例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

  • 足立 夏帆, 入佐 千晴, 鹿嶋 晃平, 垣内 五月, 西村 力, 高見 尚平, 渡辺 美穂, 高橋 尚人
    2021 年 57 巻 2 号 p. 371-375
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/06
    ジャーナル フリー

     Beckwith-Wiedemann症候群(BWS)と診断した早産・極低出生体重児の女児で修正34週に腹部超音波検査で多発肝腫瘤を認めた.BWSであること,超早産児で全身状態が不安定で侵襲が大きいと考え肝生検を回避したことなど複合的な要因があり,肝血管腫と肝芽腫の鑑別に難渋した.診断的治療としてプロプラノロールを投与したところ有効であったため,肝血管腫と診断した.早産児ではプロプラノロールの使用は推奨されていないが,本症例のように鑑別に難渋する場合は,慎重な全身管理のもとプロプラノロールを使用するのは鑑別の手段の一つとして有意義であると考えられた.

  • 羽根 将之, 横倉 友諒, 宮林 和紀, 井福 真友美, 大川 夏紀, 寒竹 正人, 東海林 宏道, 池野 充, 福永 英生, 清水 俊明
    2021 年 57 巻 2 号 p. 376-380
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/06
    ジャーナル フリー

     結節性硬化症(tuberous sclerosis complex;TSC)に対するエベロリムスの効果は幅広く,新生児の心横紋筋腫に対しても早期の腫瘍容積の縮小効果が期待できる.エベロリムスの治療適応が結節性硬化症全体に拡大し,日本結節性硬化症学会から新生児心横紋筋の治療についてのエキスパートオピニオンが提示されたことにより,今後は新生児領域での標準治療になると考えられる.今回我々は在胎35週5日,2,488gで出生した心横紋筋腫合併の早産児に対して,TSCと診断しエベロリムスの投与を行った.早産児に対してのエベロリムスの投与については,至適用量や血中濃度の推移について経験の蓄積が少ない.両親と二絨毛膜二羊膜性双胎の同胞を含めて遺伝子解析の事前の入念な遺伝子カウンセリングを必要とし,実施結果で孤発例と診断したためここに報告する.

  • 市田 啓佑, 古井 俊光, 中尾 優里, 大塚 直紀, 江坂 有希恵, 石井 美佳, 勅使河原 利哉, 水谷 輝之
    2021 年 57 巻 2 号 p. 381-384
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/06
    ジャーナル フリー

     脊髄クモ膜下麻酔後の頭蓋内急性硬膜下血腫の発症率は50万〜100万分の1と非常に稀であるが,重篤な神経症状・後遺症を起こし得る合併症である.頭蓋内急性硬膜下血腫の発生機序は硬膜穿刺後頭痛と同様に,穿刺孔から脳脊髄液が漏出することが原因と考えられており,症状の類似点も多く両者の鑑別が困難である.今回我々は,双胎妊娠に対して,脊髄クモ膜下麻酔で選択的帝王切開術を行った術後2日目に頭痛を訴え,頭部単純CT検査で頭蓋内急性硬膜下血腫と診断した1例を経験した.脊椎麻酔後には稀ではあるが重篤な合併症として頭蓋内急性硬膜下血腫を念頭に置き診療にあたる必要がある.

  • 北村 薫, 相楽 昌志, 若林 慶, 小森 咲子, 下澤 弘憲, 鈴木 由芽, 俣野 美雪, 古川 理恵子, 矢田 ゆかり, 河野 由美
    2021 年 57 巻 2 号 p. 385-389
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/06
    ジャーナル フリー

     脊髄の異常を合併したSpondylocostal Dysostosis(SCDO)の新生児2症例を経験した.

     症例1は椎骨・肋骨の変形や欠損に加えて,右裂足,低位脊髄円錐,脊髄脂肪腫を認めた.症例2は新生児脳梗塞による痙攣を主訴に搬送され,椎骨・肋骨の変形や欠損のほかに脊髄脂肪髄膜瘤,左腎欠損を認めた.仙尾部の皮膚所見は症例1では臀裂襞の軽度の彎曲を,症例2では臀裂に覆われる低い位置に浅い陥凹を認めるのみであったが,脊髄超音波検査を施行したところ脊髄病変が疑われ,脊髄MRI検査を行って診断した.SCDOに脊髄の異常を合併する頻度は稀とされているが,従来の報告より脊髄病変を合併する頻度が高い可能性はあり,治療介入を必要とする症例を見逃さないよう新生児期に脊髄超音波検査でスクリーニングをすることは有用と考えられる.

  • 平間 千尋, 西村 陽子, 岩端 由里子, 古谷 菜摘, 本間 千夏, 倉崎 昭子, 近藤 春裕, 長谷川 潤一, 鈴木 直
    2021 年 57 巻 2 号 p. 390-394
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/06
    ジャーナル フリー

     【症例】31歳,2妊1産.妊娠30週より塩酸リトドリンを服用していた.妊娠32週に口渇感と倦怠感で前医受診したが異常所見を認めず,妊娠35週,症状増悪のため前医受診し肝・腎機能障害を認め,当院へ母体搬送となった.尿浸透圧126mOsm/Kg,血中浸透圧301mOsm/Kgと高浸透圧であった.頭部MRIではT1強調画像で下垂体後葉の高信号消失を認め,尿崩症と診断し,同日よりデスモプレシンの点鼻を開始した.投与開始2日後も症状改善なく,羊水過少,肝機能障害増悪あり,分娩とした.分娩後速やかに尿量は減少し肝・腎機能の改善を認め,デスモプレシン点鼻薬は中止した.

     【結語】一過性尿崩症は,肝でのバソプレシナーゼ(ADHase)の代謝が低下し,バソプレシンが分解されることによると考えられている.本症例では,デスモプレシンによる改善が乏しく,脱水による肝機能障害の悪化を認め,母体の苦痛緩和のため妊娠終結を選択した.

  • 河崎 正裕, 佐世 正勝, 長谷川 恵子, 縄田 慈子, 金川 勉, 仲田 惣一
    2021 年 57 巻 2 号 p. 395-398
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/06
    ジャーナル フリー

     巨大膀胱を呈したが出生前診断できなかった巨大膀胱短小結腸腸管蠕動不全症(MMIHS)の1例を報告する.

     男性胎児は在胎30週の超音波検査で腹腔内嚢胞を指摘,在胎32週巨大膀胱,水腎症と診断,在胎34週当院に紹介された.下部尿路閉塞(LUTO)を疑ったが,羊水量は正常でMRI検査で巨大膀胱や水腎症を認めるものの尿道拡張は認めず,胃拡張を認めた.在胎38週6日体重3,032gで出生した.胆汁性胃液が吸引され,注腸検査ではmicrocolonを呈し,直腸生検で神経節細胞を認めMMIHSと診断した.現在月齢11で腸閉塞,尿閉状態で胃瘻,膀胱瘻を造設し,中心静脈栄養で管理中である.

     LUTOが疑われた場合,頻度はまれであるが鑑別疾患としてMMIHSも考慮すべきである.MMIHSにおいては羊水過多,消化管拡張の出現時期が遅い場合もあり,超音波検査に加えてMRI検査で消化管を詳細に観察することが鑑別に有用と考えられた.

  • 黒瀧 紗希, 伊東 麻美, 前田 寿里亜, 横山 美奈子, 松倉 大輔, 田中 幹二
    2021 年 57 巻 2 号 p. 399-403
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/06
    ジャーナル フリー

     症例は32歳,4妊2産,小児喘息の既往あり.自然妊娠成立後,前医で妊娠管理を行い,妊娠15週に予防的頸管縫縮術を施行された.妊娠17週から息切れ,呼吸苦が出現し浮腫も出現したため妊娠19週に前医を受診した.右心不全,肺高血圧症,血小板減少症を認め,造影CT検査で肺血栓塞栓症は否定され,精査加療目的に当院救急搬送となった.心エコーで右心負荷が著明で,血小板2.9万/μLに減少し,血栓性微小血管症が疑われた.翌日血小板輸血後の治療方針としていたが急変し死亡した.病理解剖を行い,特発性肺動脈性肺高血圧症(IPAH)と診断された.IPAHは若年女性に好発し,周産期に合併した場合の死亡率は30〜50%と高率で妊娠は原則禁忌である.膠原病,心疾患,肺・肝疾患などの既往はなく二次性の肺高血圧症は否定的であった.妊娠中に息切れ,呼吸苦などの出現の際はIPAHも念頭に入れ,迅速に検査加療を行う必要がある.

  • 松寺 翔太郎, 渡邊 峻, 谷 有希子, 山口 岳史, 荻野 恵, 栗林 良多, 鈴村 宏, 吉原 重美, 土岡 丘
    2021 年 57 巻 2 号 p. 404-408
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/06
    ジャーナル フリー

     症例は日齢0の女児.母体は妊娠38週で骨盤位と臍帯脱出を認め当院搬送中に救急車内で分娩となった.児は新生児仮死のため直ちに心肺蘇生が開始された.NICU入院後,重度の代謝性アシドーシスと痙攣を認めたため低酸素脳症と診断し低体温療法開始となった.日齢1に血圧低下と貧血から腹部超音波検査を施行したところ,肝右葉に約3cmの血腫を認めたため当科紹介された.保存的加療の方針となるもバイタルは安定せず,保存的加療の継続は困難と判断して日齢2に低体温療法を中止,開腹手術となった.開腹すると肝右葉後区域に破裂部があり出血源と判断した.可吸収性止血剤を損傷部に貼付し圧迫止血したところ,出血が制御されたためドレーンを留置し手術終了とした.術後経過は順調で術後36日目に退院となった.新生児に発生した肝損傷に対しては小児科や放射線科など他科と密に連携し,適切な時期に手術療法を行うことが重要である.

feedback
Top