2021 年 57 巻 3 号 p. 511-515
妊娠中のトキソプラズマ感染における胎児感染率およびその臨床症状出現リスクは,母体の感染時期によって異なり,妊娠初期では感染率は低いが症状は重度となるため,感染時期の予測は重要である.今回,感染時期の推定に苦慮した妊婦症例を経験した.患者は26歳の初産婦.妊娠初期のトキソプラズマ特異的IgG・IgM抗体価が高値であり,トキソプラズマ初感染が疑われ紹介された.施設間で用いた検査キットが異なり,当院でのIgG・IgM抗体価も高値だったが,紹介医での抗体価より低値だった.患者はIgG avidityの結果を待たずに人工流産を選択したが,その後の経過からpersistent IgM症例と考えられた.トキソプラズマの感染時期の推定には,検査法の種類や特性を知った上で抗体価の推移を追うこと,persistent IgMの可能性を念頭に置くことが重要である.今後,IgG avidity値,羊水PCR検査結果などを含めた情報を収集する全国的なシステムの構築が望まれる.