日本周産期・新生児医学会雑誌
Online ISSN : 2435-4996
Print ISSN : 1348-964X
57 巻, 3 号
日本周産期・新生児医学会雑誌
選択された号の論文の27件中1~27を表示しています
レビュー
  • 臼井 規朗
    2021 年 57 巻 3 号 p. 409-421
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/10
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     小児の嚢胞性肺疾患の分類には,いまだ確立されたものがないが,本稿の総論では,冒頭で最近の新しい考え方に基づいたわが国の小児嚢胞性肺疾患の分類を詳述する.近年は多数の先天性嚢胞性肺疾患が出生前診断されるようになったことから,周産期・新生児領域に関連した医療者の理解を深めるため,先天性嚢胞性肺疾患の出生前診断や重症度予測についても解説を加える.出生後,新生児や乳児に認められる嚢胞性肺疾患については,画像診断における特徴と,病態や臨床症状に加え,手術も含めた治療の要点について述べる.また,嚢胞性肺疾患に対する肺切除後には,いくつかの合併症が懸念されるため,晩期合併症や呼吸機能,悪性腫瘍との関連性について解説する.

     各論では,新生児や乳児に比較的多く認められる嚢胞性肺疾患として,先天性肺気道奇形(CPAM),気管支閉鎖症,肺分画症,気管支原性嚢胞,肺炎後肺嚢胞,遷延性間質性肺気腫,気腫性嚢胞・胸膜下嚢胞,胸膜肺芽腫を取り上げて概説する.また,嚢胞性肺疾患との鑑別を要する小児のびまん性肺嚢胞についても言及する.

原著
  • 勘澤 晴美, 坂井 昌人
    2021 年 57 巻 3 号 p. 422-427
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/10
    ジャーナル フリー

     日本人は欧米人に比べ妊娠糖尿病を発症しやすい人種であるが,発症予防の管理指針はなく体重増加量と発症の関連性についても議論が分かれている.近年のメタ分析でGDMスクリーニング前までの過剰な体重増加を避けることでGDMのリスクを下げる可能性が示唆されたことから,本研究は妊娠中期のGDMスクリーニング前までの体重増加量とGDM発症の関連性を明らかにし,発症予防の可能性について日本人妊婦を対象に後方視的に検討を行った.

     妊娠中期までの体重増加量がGDM発症の影響因子になるのは非妊娠時BMI普通群の妊娠20週までの体重増加量であり(GDM発症オッズ比[OR]1.1, 95%CI:1.01-1.29),非妊娠時BMI肥満群,痩せ群では影響因子にならなかった.非妊娠時BMI普通群の妊娠20週まで体重増加量が3.8kg以上だとGDM発症ORは1.92(95%CI 1.01-3.65)であった.また妊娠初期HbA1c5.6%以上ではGDM発症ORは非妊娠時BMI普通群でOR2.5(95% CI:1.24-4.91),非妊娠時BMIが肥満群だとOR6.9(95% CI 2.0-23.92)であった.

  • 田尾 克生, 鈴木 秀文
    2021 年 57 巻 3 号 p. 428-433
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/10
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     プレセプシン(Presepsin:P-sep)は感染症の指標として既知の炎症指標よりも早期に上昇し,外傷,手術などの影響を受けにくく,重症度を反映するエビデンスレベルの高い指標とされている.P-sepは早産や絨毛膜羊膜炎の予測指標と報告されているが,妊娠期間中の変動については報告されていない.我々は53名の妊婦を対象にP-sep,白血球,好中球,単球,CRPを測定した.単変量解析ではP-sepは妊娠週数と白血球数,好中球数,胎児の推定体重と有意な相関を認めたが,多変量解析で妊娠週数のみに有意に相関してP-sepが上昇することを示した(P=0.01).P-sepとCRPや白血球などの他の炎症指標との間に有意な相関を認めなかった.P-sepは妊娠週数による生理的な変化を受けるが,その有用性の評価について更なる研究が必要である.

  • 豊 奈々絵, 小畑 慶輔, 美馬 文, 鍋谷 まこと, 丸尾 伸之, 佐野 博之
    2021 年 57 巻 3 号 p. 434-440
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/10
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     目的;日本では,この数年間の新生児医療の発展とともに,新生児の緩和医療が注目されるようになってきた.新生児緩和ケアの現状を知り問題提起するために我々は当院での14年間の死亡症例を振り返り検討した.

     対象および方法;2005年1月〜2019年1月までの14年間で,NICUで死亡した54名を後方視的に検討した.

     結果;先天性疾患は15名,超低出生体重児は26名,重篤な心疾患は2名,低酸素性虚血性脳症は6名,その他5名であった.17名は鎮静剤を使用していた.9名は胎児診断され,すべてがACP(Advanced Care Planning)を実施していた.胎児診断されていなかった45名のうち32名(59.3%)が集中治療を継続した状態で死亡の転機を辿っていた.

     結語;予後予測が難しい重篤な疾患をもつ新生児では,集中治療を行う上で緩和ケアへの移行を繰り返し検討し,集中治療の継続の意義を家族を含めたチームとして熟慮していくことが必要である.

  • 佐々 真梨子, 笠井 靖代, 山田 学, 上田 江里子, 芥川 香奈, 津村 志穂, 井出 早苗, 細川 さつき, 有馬 香織, 渡邊 理子 ...
    2021 年 57 巻 3 号 p. 441-446
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/10
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     高年初産における年齢因子の関与を明らかにする目的で,当センターにおいて2016年から3年間に扱った分娩症例のうち,死産を除いた単胎の初産婦4,830例を対象に,生殖補助医療の有無,産科合併症,分娩様式,新生児予後等について25-29歳の初産婦を対照として年齢階層別に解析した.また,これらの評価項目について2007年から2010年までの分娩症例を対照として同様に解析した.

     年齢階層が上がると,ART妊娠,妊娠糖尿病,妊娠高血圧症候群,前置胎盤,帝王切開率は有意に増加したが,新生児予後については変化を認めなかった.10年前と比較すると,各年齢群でART妊娠,妊娠高血圧症候群,妊娠糖尿病については増加傾向を示したが,帝王切開率と新生児予後については大きな変化を認めなかった.

     高年齢化に伴う母体の産科リスクは高まっているが,現時点では新生児予後を増悪させることなく周産期管理が維持できている.

  • 矢壁 和之, 髙崎 彰久, 藤村 大志, 田邊 学, 丸山 祥子, 森岡 均, 嶋村 勝典
    2021 年 57 巻 3 号 p. 447-451
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/10
    ジャーナル フリー

     羊水塞栓症は心肺虚脱型と産科危機的出血の一原因である子宮型があり,いずれも分娩時に母体血管内へ羊水が流入することで発症するが,子宮型羊水塞栓症は羊水流入の量に関係があるかなど,その病態は明らかになっていない.今回,妊娠,分娩期間中の母体血中SCC値の経時的変化を調べ,羊水中SCC値および分娩前後の血中SCC値を測定することで,羊水の母体血中への流入を推測し,子宮型羊水塞栓症の主症状である分娩時出血量との関連性について検討した.妊娠初期,中期,後期の母体血中SCC値の経時的な変化に有意差は認めなかった.経腟分娩は帝王切開よりも分娩後に母体血中SCC値が上昇しており,母体への羊水流入量が多いことが推定されたが,経腟分娩において,羊水流入量と分娩時出血量に関連は認められなかった.子宮型羊水塞栓症の発症には,アナフィラクトイド反応など,羊水の母体血中への流入量以外に要因があると考えられた.

  • 橋本 佑樹, 村松 友佳子, 伊藤 美春, 齊藤 明子, 佐藤 義朗, 牛田 貴文, 小谷 友美, 早川 昌弘
    2021 年 57 巻 3 号 p. 452-456
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/10
    ジャーナル フリー

     目的:母体血を用いた出生前遺伝学的検査(NIPT)が,当院における羊水染色体検査に関する臨床因子に与えた影響を検討すること.

     方法:2010年4月〜2020年3月に実施された羊水染色体検査332例とNIPT192例を対象に検査数の推移を検討した.羊水染色体検査を2010年4月〜2013年3月に実施した148例と2017年4月〜2020年3月に実施した67例で臨床因子の変化について検討した.

     結果:羊水染色体検査件数はNIPT開始後に減少し,NIPT件数は2017年の導入以後増加した.NIPT導入後,35歳以上の高年妊娠の割合が低下した.検査理由では,高年妊娠の割合が減少し,NT肥厚以外の超音波異常が有意に増加した.染色体異常は,NIPT導入後に検出率が上昇した.

     結論:当院のような高次医療機関においても,NIPT導入が羊水染色体検査の臨床因子に影響を与えたことが示唆された.

  • 西川 貴史, 長谷川 雅明, 黒田 亮介, 赤松 巧将, 荒武 淳一, 露木 大地, 西村 智樹, 原 理恵, 田中 優, 伊藤 拓馬, 楠 ...
    2021 年 57 巻 3 号 p. 457-464
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/10
    ジャーナル フリー

     羊水中のIL-6値および顆粒球エラスターゼ定性検査,母体血中CRP値と妊娠延長期間および分娩週数との関係を比較検討した.対象は過去6年間に当施設にて子宮内感染の検査目的で羊水検査を行った妊娠28週未満の未破水例(n=73)とした.羊水検査後14日以内および32週以降の分娩を予測するROC解析で,IL-6は最も有用だった.IL-6のそれぞれの最適カットオフ値は11,837pg/mLおよび4,333pg/mLだった.一方,IL-6と顆粒球エラスターゼ定性検査の一致度は高く,全一致率は80%以上,Kappa係数は0.6以上だった.IL-6値は妊娠延長期間および分娩時期の予測に優れた診断能を有するが,IL-6が測定できない場合の代用として顆粒球エラスターゼ定性検査の有用性が期待できる.

  • 梅木 崇寛, 田中 教文, 坂下 知久
    2021 年 57 巻 3 号 p. 465-469
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/10
    ジャーナル フリー

     帝王切開は経腟分娩より合併症のリスクが高く,各施設で帝王切開率低減の努力が必要である.当院は2014年4月から児の健常性を疑う症例にオキシトシン負荷試験を行う等の取り組みを行い,2017年7月から帝王切開決定の判断を一元化し帝王切開率低減の努力を続けている.成果を確認するため帝王切開率の推移を調べ,帝王切開の適応が適正であったかをRobson分類で検証した.2011年4月〜2014年3月(P0),2014年4月〜2017年6月(P1),2017年7月〜2019年1月(P2)の期間で帝王切開率は漸減し,P2の帝王切開率はP0,P1に比し有意に低下した.Robson分類のGroup 1は,帝王切開率はP1に比しP2で有意に減少し,児の短期予後はP1に比しP2で悪化しなかった.帝王切開率は2014年度以降の取り組みで減少し,帝王切開決定の判断の一元化でさらに減らすことができたと考えた.

  • 大塚 由花, 吉田 裕輔, 高野 政志, 黒川 貴幸
    2021 年 57 巻 3 号 p. 470-475
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/10
    ジャーナル フリー

     海上自衛官は日本では稀な感染症の流行地に入国するため,艦艇内で医師が教育を実施しているが,これまでに教育効果を検討した報告はない.本研究では,平成29年度海上自衛隊練習艦隊乗員のうち非医療従事者約400名総員を対象とし,教育直後・教育3カ月後にジカウイルス感染症に関する設問を用いて教育効果を年代毎に解析した.アンケート調査において教育以前から設問内容をすべて既知と回答したのは39.1%であったが,教育直後の正誤問題における全問正解率は99.5%と著明に上昇した.しかし3カ月後には全問正答率が86.9%に低下し,特に41歳以上で有意に低下した(p < 0.05).妊婦のジカウイルス感染と胎児小頭症のリスクに言及した設問は全年代において正答率が低下しなかった.感染症の教育では,年代による関心の差に留意し,教育の反復や視覚的情報の使用等が重要であることが示唆された.

  • 張本 姿, 綱掛 恵, 平井 雄一郎, 小西 晴久, 藤本 英夫
    2021 年 57 巻 3 号 p. 476-480
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/10
    ジャーナル フリー

     医療機関の集約化に伴い墜落分娩が生じる懸念がある.今回我々は2015年から2020年までに当院で経験した墜落分娩を,それぞれ後方視的に検討した.対象期間の総分娩数は3,678例,うち墜落分娩は16例(0.44%)であった.墜落分娩症例の自宅から当院までの距離は中央値28.5kmであった.初産婦1例,経産婦15例で,産科既往症では墜落分娩3例,切迫早産2例,早産1例の既往を認めた.児娩出から当院到着までの時間は中央値11.5分で,児は胎児異常による死産1例,低体温症5例,呼吸障害4例,多血症3例を入院時に認め,入院中4例が黄疸で光線療法を施行した.検討の結果,様々な状況で墜落分娩は生じていた.分娩前の墜落分娩リスクの把握や指導,墜落分娩が切迫している際の適切な指示や生じた際の対応について妊婦や救急隊へ指導を行うことで,墜落分娩を増加させない,あるいは墜落分娩での合併症を減らすことが大切である.

  • 鈴木 凜, 太田 創, 小野 洋輔, 滝本 可奈子, 福士 義将, 和田 真一郎
    2021 年 57 巻 3 号 p. 481-485
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/10
    ジャーナル フリー

     海外では分娩時の継続的な支援によって急速遂娩が減るとする報告があるが,本邦で同様の検討は報告されていないため,分娩時立ち会いの有無と急速遂娩の関連を検討した.対象は2017年11月から2019年10月の間に当院で分娩した経腟分娩予定の初産婦で,早産と多胎は除外した.主要評価項目は急速遂娩率とした.交絡因子は妊娠糖尿病,妊娠高血圧症候群,分娩誘発,肥満(非妊時BMI > 25kg/m2),るい痩(非妊時BMI < 18.5kg/m2),高年妊娠(> 35歳),未成年(< 20歳),生殖補助医療妊娠,羊水過少,胎児発育不全,前期破水として多変量解析し,急速遂娩に対するオッズ比を推定した.期間中の1,167分娩のうち対象は448例で,急速遂娩は143例だった.立ち会い無しは102例で立ち会い有りは346例だった.両群の急速遂娩はそれぞれ30例(29.4%)対113例(32.7%)で,有意差を認めなかった(p=0.63).急速遂娩に対する立ち会い有りの調整オッズ比は1.39(95% CI:0.82-2.38)だった.分娩時の家族立ち会いの有無は急速遂娩に関連しなかった.

  • 野村 智章, 設楽 佳彦, 木村 有希, 近藤 雅楽子, 九島 令子, 大森 意索
    2021 年 57 巻 3 号 p. 486-493
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/10
    ジャーナル フリー

     在胎28週以下の早産児に対し,母体慢性早剥羊水過少症候群(chronic abruption-oligohydramniossequence:CAOS)の有無による予後を後方視的に検討した.短期予後項目として慢性肺疾患,在宅酸素療法,死亡,肺性心による死亡,長期予後項目として修正18カ月時の身長SD値,体重SD値,全領域DQ値について単変量・多変量解析を行った.CAOS群において単変量解析では短期予後項目のうち慢性肺疾患,肺性心による死亡,在宅酸素療法または肺性心による死亡が有意に多く,多変量解析ではCAOS群において有意にリスクが高かったのは在宅酸素療法または肺性心による死亡であった.成長発達に関する長期予後には有意差を認めなかった.CAOSの児は呼吸器の短期予後は不良であるが生存例では有意差のない成長発達が見込まれ,慢性肺疾患の予防・管理方法の発展及びより長期の予後検討が望まれる.

  • 京野 由紀, 城戸 拓海, 菅 秀太郎, 仲宗根 瑠花, 阿部 真也, 芦名 満理子, 藤岡 一路
    2021 年 57 巻 3 号 p. 494-498
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/10
    ジャーナル フリー

     背景:母親が精神疾患に罹患している場合,児が自宅退院困難となることが多い.そこで,精神疾患合併母体児における自宅退院困難と関連する要因を検討した.

     方法:2009-2018年に当院に入院した精神疾患合併母体児184人を後方視的に検討した.

     結果:退院時に乳児院入所もしくは特別養子縁組の転帰となった自宅退院困難群は6人(3.3%)であった.「シングルマザー」,「配偶者の精神疾患罹患」,「妊娠中の医療保護入院」の3因子が自宅退院困難群において有意に高率であった.自宅退院困難群との関連は,「シングルマザー」または/かつ「妊娠中の医療保護入院」がYouden Indexが最も高かった(感度100%,特異度81%).

     結語:自宅退院が困難であることと最も関連する因子は「シングルマザー」または/かつ「妊娠中の医療保護入院」であり,これらを対象に積極的なサポートを検討する必要がある.

  • 豊田 理奈, 荒井 博子, 村井 裕香, 石嶺 里枝, 森谷 菜央, 緒方 公平, 日根 幸太郎, 斉藤 敬子, 水書 教雄, 川瀬 泰浩, ...
    2021 年 57 巻 3 号 p. 499-505
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/10
    ジャーナル フリー

     当院で胎児鏡下吻合血管レーザー凝固術(fetoscopic laser photocoagulation of placental vessels:FLP)導入後に管理した一絨毛膜二羊膜(monochorionic diamniotic:MD)双胎の短期予後および先天異常につき検討した.対象は2016年8月から2018年9月に管理したMD双胎92組184例で,生存率は全体の89.1%,FLPを施行したTTTS群は85.9%,FLPを施行したsIUGR群は67.9%,FLP非施行群は100%だった.一児子宮内胎児死亡(intrauterine fetal death:IUFD)は18例(19.6%),新生児死亡は1例(0.6%)であった.先天異常は全体の9.8%だった.FLP導入以降のMD双胎の短期予後は既報と同じく良好であった.また,先天異常は一般頻度と比べ高率であった.

症例報告
  • 飯場 萌絵, 大原 玲奈, 鈴木 あすか, 筑田 陽子, 木村 友沢, 細川 義彦, 西田 恵子, 阿部 春奈, 眞弓 みゆき, 小畠 真奈 ...
    2021 年 57 巻 3 号 p. 506-510
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/10
    ジャーナル フリー

     脳動脈解離はくも膜下出血や脳梗塞の原因となるが,妊娠・分娩・産褥期の報告は少ない.今回分娩直後に意識障害を発症し脳底動脈解離による両側視床梗塞と診断された一例を報告する.症例は22歳,1妊0産,既往歴や家族歴に特記事項なし.妊娠経過に問題はなく,妊娠39週6日に陣痛が発来し経腟分娩に至った.児娩出4分後に誘因なく意識障害が出現した.CTで脳出血を疑う所見なかったものの,JCS II-100の意識障害が遷延し当院へ母体搬送となった.MRIや血管造影検査で脳底動脈解離による両側視床梗塞と診断された.産褥4日に梗塞巣と解離の拡大を認め,脳底動脈にステント留置を行った.食事や歩行練習が可能となり,産褥53日でリハビリ転院となった.本症例で妊娠・分娩が脳動脈解離の誘因となったかどうかは明らかではないものの,脳動脈解離は若年者脳卒中の主要原因の一つであり,妊娠・分娩・産褥期の意識障害では鑑別すべきである.

  • 上田 菜月, 多田 克彦, 野呂瀬 一美, 中村 信, 熊澤 一真
    2021 年 57 巻 3 号 p. 511-515
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/10
    ジャーナル フリー

     妊娠中のトキソプラズマ感染における胎児感染率およびその臨床症状出現リスクは,母体の感染時期によって異なり,妊娠初期では感染率は低いが症状は重度となるため,感染時期の予測は重要である.今回,感染時期の推定に苦慮した妊婦症例を経験した.患者は26歳の初産婦.妊娠初期のトキソプラズマ特異的IgG・IgM抗体価が高値であり,トキソプラズマ初感染が疑われ紹介された.施設間で用いた検査キットが異なり,当院でのIgG・IgM抗体価も高値だったが,紹介医での抗体価より低値だった.患者はIgG avidityの結果を待たずに人工流産を選択したが,その後の経過からpersistent IgM症例と考えられた.トキソプラズマの感染時期の推定には,検査法の種類や特性を知った上で抗体価の推移を追うこと,persistent IgMの可能性を念頭に置くことが重要である.今後,IgG avidity値,羊水PCR検査結果などを含めた情報を収集する全国的なシステムの構築が望まれる.

  • 山口 桃李, 加藤 徹, 亀井 秀剛, 上東 真理子, 竹山 龍, 田中 宏幸, 澤井 英明, 柴原 浩章
    2021 年 57 巻 3 号 p. 516-519
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/10
    ジャーナル フリー

     汎下垂体機能低下症合併妊娠は非常に稀であり,分娩方式は帝王切開となることが多い.今回,不妊治療を行い妊娠に至った汎下垂体機能低下症患者に対し計画的陣痛誘発が有効であり,経腟分娩に成功した1例を経験したので報告する.症例は32歳,0妊0産.22歳時に当院脳外科で頭蓋咽頭腫に対する開頭腫瘍摘出術が施行された.術後から汎下垂体機能低下症となり,脳外科と産婦人科でホルモン補充療法を継続的に行った.29歳で結婚し,挙児希望のため排卵誘発目的に不妊治療を開始し,体外受精・胚移植(IVF-ET)で妊娠成立した.ホルモン補充しながら妊娠管理を行い,オキシトシンの分泌不全が想定されたために妊娠39週で計画的陣痛誘発した.陣痛誘発の結果,妊娠39週4日に2,700g(-0.77SD)の女児を経腟分娩した.プロラクチン産生低下のため,産後は人工乳での育児を選択した.汎下垂体機能低下症合併妊娠は,ホルモン補充を行いながらの厳重な妊娠管理が必要となる.分娩方式に関しても検討が必要であり,文献報告も少なく帝王切開を選択することも多いが,今回は計画的陣痛誘発を行うことで経腟分娩に成功した.

  • 佐藤 良滉, 星野 雄介, 新井 順一, 雪竹 義也, 梶川 大悟, 鎌倉 妙, 淵野 玲奈
    2021 年 57 巻 3 号 p. 520-524
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/10
    ジャーナル フリー

     異常ヘモグロビン症(異常Hb症)はチアノーゼを呈するため,過剰な医療介入を受けることがある.我々は生後に過剰な医療介入を受けた異常Hb症(Hb F-M-Osaka)の一例を経験した.症例は在胎39週6日,出生体重3,104gの男児.自然分娩で出生し,全身性チアノーゼのために入院し,人工呼吸管理やプロスタグランジンE1製剤の投与を受けた.入院後の病歴聴取で異常Hb症の家族歴が判明し,遺伝子検査で異常Hb症(Hb F-M-Osaka)と診断した.異常Hb症は稀な疾患であるため医療従事者が遭遇する機会は少なく,また無症状であることが多いため病識をもたれにくい.そのため診断はしばしば困難である.医療従事者の疾患についての理解と家族への十分な説明が,過剰な医療介入を避けるために重要である.

  • 東松 明恵, 志賀 友美, 安見 駿佑, 森重 健一郎
    2021 年 57 巻 3 号 p. 525-530
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/10
    ジャーナル フリー

     原発性硬化性胆管炎(Primary sclerosing cholangitis:PSC)は肝内外の胆管にびまん性狭窄が生じ,胆汁うっ滞をきたす慢性肝疾患である.PSC合併妊娠において,ビタミンK吸収障害による出血傾向を認めた1例を経験した.35歳女性.1妊0産.33歳時にPSCと診断された.妊娠32週頃より皮膚掻痒感,易出血性,血圧上昇,尿蛋白陽性,プロトロンビン時間(Prothrombin time:PT)の低下(35%)を認め,管理目的に妊娠35週0日に当院搬送となった.血液検査から胆汁うっ滞に伴う脂溶性ビタミンの吸収障害によるPT延長を疑いビタミンK製剤を投与したところ,PT:94%と改善を認め,搬送翌日に選択的帝王切開術を施行した.妊娠によるホルモン変化と子宮増大により,胆汁うっ滞が増悪し脂溶性ビタミンの吸収障害が起きたことでビタミンK欠乏による凝固異常を呈したと考えられた.

  • 榎本 早也香, 小豆澤 敬幸, 山本 正仁
    2021 年 57 巻 3 号 p. 531-534
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/10
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     分娩骨折の発生頻度は1%未満であり,鎖骨骨折の頻度が最も高く,そのほかの部位では上腕骨や大腿骨の骨幹部に発生することが知られている1).今回,骨盤位のため選択的帝王切開術で出生後,右下肢の腫脹,自動運動の低下を認め,MRI検査で右大腿骨遠位骨端線損傷と診断し,非観血的治療で治癒した一例を経験した.骨端線損傷の場合,後遺症を残す例もある2)ので,早期の診断と治療が良好な予後につながり得る.診断にはMRI検査が有用であると考えられた.新生児の大腿骨遠位骨端線損傷は稀であり,過去の報告例と自験例を比較し考察する.

  • 鈴木 靖美, 長田 朝美, 玉岡 哲, 金 隆根, 有光 威志, 飛彈 麻里子
    2021 年 57 巻 3 号 p. 535-539
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/10
    ジャーナル フリー

     在胎26週6日,598g,女児.修正36週以降もHigh flow nasal cannulaによる呼吸補助を離脱できず,重症慢性肺疾患と診断した.心臓超音波検査で最大径11mmの心房中隔欠損症(ASD)と圧較差44mmHgの三尖弁逆流を認め,慢性肺疾患と高肺血流の合併による肺高血圧を疑った.呼吸障害改善と肺高血圧重症化予防には,肺血流量是正が必要と考え,外科的治療の可否を判断するために生後5カ月で心臓カテーテル検査を実施した.重症の肺高血圧はないことを確認し,生後6カ月にASD閉鎖術を行った.手術直後に肺高血圧クライシスを呈し一酸化窒素吸入療法を要したが,その後速やかに経口血管拡張薬治療に移行可能となった.術後21日目に在宅酸素吸入療法導入下で退院した.慢性肺疾患を合併する超低出生体重児ではASDの早期治療が呼吸障害を改善する可能性が示唆された.

  • 谷村 知繁, 杉浦 崇浩, 神農 英雄, 戸川 泰子, 大石 彰, 杉本 真里, 加藤 丈典, 岡田 真由美, 村松 幹司
    2021 年 57 巻 3 号 p. 540-544
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/10
    ジャーナル フリー

     Campomelic dysplasia(以下CD)はSOX9遺伝子変異による常染色体優性遺伝の骨系統疾患である.重度の呼吸不全をきたすことが多く,ほとんどがde novo変異による孤発例であり家族発症例は稀である.今回,我々は父親の性腺モザイクに起因すると推定されるCD同胞例を経験した.第1子は重症のCDであり,第2子も胎児期に同様の所見が認められた.父親は生来健康だったが,低身長を認め,遺伝学的解析によりモザイクが示唆された.さらに父親のX線写真では肩甲骨および腸骨の低形成を認めた.CDモザイク症例では低身長や骨低形成を認めたとの報告が散見され,CDを経験した際は,両親に低身長や骨形成不全がないか確認することにより両親の性腺モザイクを推測し,次子のCD発症を検討する上で有益な情報となりうる.

  • 丸山 真弓, 小幡 美由紀, 福長 健史, 饗場 智, 堤 誠司
    2021 年 57 巻 3 号 p. 545-549
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/10
    ジャーナル フリー

     赤ちゃんにやさしい病院認定施設である当院において,COVID-19合併妊娠を2例経験したので報告する.症例1は34歳,5妊3産.妊娠28週3日でCOVID-19を発症した.経過観察するも高熱が続き,呼吸器症状と血小板減少症が進行した.母体への抗ウイルス薬投与が必要と判断し,妊娠29週5日で帝王切開術を行い,術後1日から抗ウイルス薬を投与した.母乳栄養の希望があり,術後3日から搾乳による母乳栄養を行い,退院後に直接授乳へ移行した.症例2は29歳,1妊0産.妊娠38週6日に陣痛が発来した.来院時の検査でCOVID-19と診断され,当院へ搬送後に帝王切開で分娩した.術後8日まで母児分離とし,母児同室後に混合栄養を開始した.両児ともCOVID-19感染はなかった.COVID-19を合併していても,十分な感染対策を行えば母の希望に沿った栄養法を行えると考えられた.

  • 湯浅 千春, 中嶋 敏紀, 山下 尚志, 北川 麻里江, 徳田 諭道, 酒見 好弘, 山下 博徳
    2021 年 57 巻 3 号 p. 550-555
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/10
    ジャーナル フリー

     母児間輸血症候群(Fetomaternal transfusion syndrome:FMT)は急性〜慢性に経過し臨床像は様々であることが知られている.重症例は脳性麻痺や胎児死亡に至るが,予後関連因子は不明な点が多い.軽症〜重症の経過を辿ったFMTの3例を経験し,過去報告例とあわせて予後不良因子を検討した.本報告3例中,急性発症で出血量が少なく短時間で娩出できた例,発症から1週間以上経過していた慢性発症例は予後良好であったが,胎動減少から2日経過し出血量が多かった症例は重篤な神経学的後遺症を残した.本報告例を含め過去10年間の本邦報告38例の検討から,急性発症で出血量が多く,娩出までに時間を要した例は予後不良例が多かった.推定出血量に加え,胎動減少から分娩までの時間経過,発症様式が予後に大きく影響することが示唆された.

  • 小幡 美由紀, 堤 誠司, 仙道 可菜子, 渡邉 憲和, 青木 倉揚, 若林 崇, 佐々木 綾子, 永瀬 智
    2021 年 57 巻 3 号 p. 556-560
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/10
    ジャーナル フリー

     チトクロームP450オキシドレダクターゼ(POR)異常症は,POR依存性酵素の活性低下による多彩な症状を示す.POR異常症を3DCTと母体の尿ステロイドプロファイルを用いて出生前に診断したので報告する.症例は32歳.妊娠20週頃から鼻翼や口唇の肥大,手足の増大を自覚していた.妊娠30週に胎児の陰核肥大を認めた.母体の末端肥大症が疑われたが,成長ホルモンの上昇や下垂体腺腫は認めなかった.血中エストロゲン値が妊婦としては低値で,血中テストステロン値は上昇しており,胎児のアロマターゼ欠損症やPOR異常症が疑われた.母体の尿ステロイドプロファイルではステロイド中間産物の代謝物の排泄が増加し,胎児3DCTで上腕骨と橈骨の癒合を認め,POR異常症と診断した.母体の尿ステロイドプロファイルと胎児3DCTの併用は,胎児超音波検査による形態異常所見が目立たない中等症のPOR異常症の出生前診断に有用であった.

速報
  • 会田 真衣, 福間 理子, 長谷川 潤一, 西村 陽子, 本間 千夏, 佐治 正太, 古谷 菜摘, 美馬 康幸, 倉崎 昭子, 近藤 春裕, ...
    2021 年 57 巻 3 号 p. 561-564
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/10
    ジャーナル フリー

     【目的】新型コロナウイルスワクチンに関する妊婦の不安,情報に関する問題を明らかにすること.

     【方法】2021年6月,妊婦健診受診中の妊婦に,コロナウイルス感染症に関するアンケート調査を行った.

     【結果】総回答数は284で,74%の妊婦はPCR検査を受けたいと回答し,妊婦にワクチン接種ができることを知っていたのは70%であった.実際,ワクチンを受けたいと考える妊婦は40%,受けたくない妊婦の82%は副作用を懸念していた.53%の妊婦はそれなりに情報収集していると回答し,情報源としてはテレビやWebが多かった.医療機関の情報提供は半数以上の妊婦に普通であると評価された.

     【結論】コロナ禍における妊婦は感染を不安に思い,自らの抗体保有の状態を把握したいと考え,免疫獲得を希望していた.一方,ワクチンに対する不安を抱える妊婦も少なくなく,適切なテレビ,医療機関などを介した情報提供が必要である.

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