2022 年 57 巻 4 号 p. 575-577
はじめに
日本における妊産婦死亡率は1989年8.2から徐々に低下,ここ数年は停滞しており2019年では3.3である.原因疾患としての産科危機的出血は最多(19%)であるが年々減少しつつある1).しかし,輸血を必要とする程の産科出血自体の頻度は,妊婦の250から300人に1人であり変動はない2).産科危機的出血による死亡減少の裏にはBLS講習会や,J-MELSコースの全国的な展開がある.また,2007年以降,「危機的出血への対応ガイドライン」「産科危機的出血への対応ガイドライン」「産科危機的出血に対するIVR施行医のためのガイドライン」が発刊されたことも妊産婦死亡率の減少に寄与した.J-MELSは患者搬送を速やかに行う目的で開発され,Shock Indexが1を上回れば高次施設への搬送を考慮,1.5以上であれば「産科危機的出血」を宣言するとされている.この展開によりover triageを許容する環境整備が整い,高次施設への搬送が格段に加速されたと考えられる.当講演では他科との連携による産科危機的出血における管理法を述べた.図1に重篤な産後出血に対する種々の止血手技を示す.