日本周産期・新生児医学会雑誌
Online ISSN : 2435-4996
Print ISSN : 1348-964X
57 巻, 4 号
日本周産期・新生児医学会雑誌
選択された号の論文の38件中1~38を表示しています
第57回日本周産期・新生児医学会学術集会記録
会長講演
  • 鮫島 浩
    2022 年 57 巻 4 号 p. 565-567
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/20
    ジャーナル フリー

     周産期医学は,妊娠中の母体と子宮内の胎児と出生後の新生児を対象に,このユニット全体を総合的に,連続的に管理する医学である.母児の関連,妊娠に伴う母体変化,妊娠維持機構,胎児発育発達,胎盤異常,先天異常,子宮内感染,新生児医療,新生児以降の合併症,DOHaDなどの次世代への影響など,学問の切り口も,カバーする領域も広い.

     周産期医学は臨床医学でもあり,教育,診療,研究,地域医療が重要である(図1).研究に関しても,動物実験やin-vivo/ in-vitro研究などの基礎的研究と,RCTやpopulation-based研究が可能な臨床フィールドが重要で,相互にフィードバックしつつ,学問サイクルを回し続け,発展し続ける必要がある(図1).

     今回,1980年代にこの領域に入った臨床家研究者として,われわれが主に実施してきた基礎的研究と臨床フィールド研究を紹介することで,学問サイクルを回し続けることの重要性を示し,未来への提言としたい.

特別講演
  • 中村 佳文
    2022 年 57 巻 4 号 p. 568-570
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/20
    ジャーナル フリー

     文学の地みやざきと生命の誕生

     本学術集会のテーマ「神話の地から,周産期医学の未来への提言」にあるように,この宮崎は「文学」に所縁の深い土地である.真東に太平洋に連なる日向灘を臨み,振り返れば霧島連山などの山々があり「海の幸・山の幸」の豊かな自然の循環を感得できるところだ.我々は常に東の海に朝陽を拝むことができ,水平線から上り来る太陽の球形は魂・生命そのものに見立て日々を過ごすことができる.この会場からもほど近い宮崎市内には,「青島」というかつての新婚旅行の聖地がある.まさに神々が出逢い人々が縁を結び,生命の誕生へのスタートを祈る地が宮崎なのである.只今「海の幸・山の幸 いざ神話の源流へ」をテーマとして「国文祭・芸文祭みやざき2020」が一年延期されながらも開幕した.昨日は宮崎大学附属図書館を会場として「みやざき大歌会」を共催し,著名な歌人で小説家の東直子さんをお迎えしてトークイベントを実施した.その後,県内の中学生・高校生・大学生が一堂に介して自作短歌を語り合い,文学を足場に若い命がこの地の未来を見据えている.

  • 池ノ上 克
    2022 年 57 巻 4 号 p. 571-574
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/20
    ジャーナル フリー

     周産期医学の過去と未来について,これまで筆者が直接関わった分野を中心に述べてみたい.そのため筆者独自の視点があることをお許しいただきたい.

     鹿児島大学医学部を1970年に卒業後,研修の一環として鹿児島市立病院産婦人科にお世話になったが,そこで実に多くの新生児が死亡しているのを知った.50年以上前のことである.機会を得て当時の南カルフォルニア大学産婦人科に留学して周産期医療の世界の黎明期ともいえる現場に遭遇できたのは幸運なことであった.出生前の胎児を対象にした医学研究が行われ,その臨床応用が進んでいる時期であった.その先端的な議論の中に身を置き,先駆者たちが何を求めながら進んでいるのかを直接感じることができた.

教育講演
  • 上塘 正人
    2022 年 57 巻 4 号 p. 575-577
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/20
    ジャーナル フリー

     はじめに

     日本における妊産婦死亡率は1989年8.2から徐々に低下,ここ数年は停滞しており2019年では3.3である.原因疾患としての産科危機的出血は最多(19%)であるが年々減少しつつある1).しかし,輸血を必要とする程の産科出血自体の頻度は,妊婦の250から300人に1人であり変動はない2).産科危機的出血による死亡減少の裏にはBLS講習会や,J-MELSコースの全国的な展開がある.また,2007年以降,「危機的出血への対応ガイドライン」「産科危機的出血への対応ガイドライン」「産科危機的出血に対するIVR施行医のためのガイドライン」が発刊されたことも妊産婦死亡率の減少に寄与した.J-MELSは患者搬送を速やかに行う目的で開発され,Shock Indexが1を上回れば高次施設への搬送を考慮,1.5以上であれば「産科危機的出血」を宣言するとされている.この展開によりover triageを許容する環境整備が整い,高次施設への搬送が格段に加速されたと考えられる.当講演では他科との連携による産科危機的出血における管理法を述べた.図1に重篤な産後出血に対する種々の止血手技を示す.

  • 左合 治彦
    2022 年 57 巻 4 号 p. 578-580
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/20
    ジャーナル フリー

     はじめに

     双胎妊娠の予後は膜性によって異なる.二絨毛膜双胎に比べ,一絨毛膜双胎は周産期リスクが高く,より慎重な管理が求められる.一絨毛膜双胎では二児で一つの胎盤を共有するために特有な病態が生ずるためである.胎盤吻合血管を介した両児間の慢性的な血流不均衡による双胎間輸血症候群(twin-twin transfusion syndrome:TTTS)が代表例であり,胎盤占有面積の不均衡による1児発育不全(selective intrauterine growth restriction:sIUGR),微小な吻合血管によるtwin anemia polycythemia sequence(TAPS),その他無心体双胎によるtwin reversal arterial perfusion sequence(TRAPS)がある.

     TTTSに対する胎児鏡下レーザー凝固術(fetoscopic laser photocoagulation:FLP)やTRAPSに対するラジオ波凝固術(radiofrequency ablation:RFA)が導入され,胎児治療によって一絨毛膜双胎に特有な病態の治療が可能となった1).一絨毛膜双胎の特有な病態とそれに対する胎児治療の歩みについて,日本の臨床研究の成果をもとに解説する.

  • 米田 徳子
    2022 年 57 巻 4 号 p. 581-585
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/20
    ジャーナル フリー

     はじめに

     早産は,世界中で児の死亡と後遺症の主な原因となっている.周産期管理,新生児医療が日々進化している現代においても,特に超早産児は依然として死亡率が高く,未熟性による後遺症に苦しむ児が多い.早産児の後遺症なき生存は,周産期医療に携わるものとして,切に願ってやまない永遠のテーマである.ここでは,世界と日本の早産の現状,早産児の長期神経発達予後,早産の原因と病態,切迫早産の子宮内感染・炎症の評価と治療,自然早産の予防と後遺症なき生存を目指した新たな予防・治療戦略について,概説する.

  • 佐藤 勇一郎
    2022 年 57 巻 4 号 p. 586-589
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/20
    ジャーナル フリー

     はじめに

     胎盤は,胎児と母体をつなぐ重要な臓器であり,様々な機能をもつ.母体または胎児の異常がある場合,病理医が胎盤を検索し,“胎盤病理”を行う.胎盤病理で重要な病変として,子宮内感染症を反映する絨毛膜羊膜炎,循環障害・灌流障害を反映する胎盤梗塞などがあり,この灌流障害の中に,胎盤に生じる血栓症が含まれる.本稿では,胎盤病理一般的な事項について,さらに具体的な症例を提示し,胎盤に生じる血栓症に関して解説する.

  • 田尻 達郎
    2022 年 57 巻 4 号 p. 590-592
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/20
    ジャーナル フリー

     はじめに

     仙尾部奇形腫(SCT)は胎児期・新生児期に診断される良性腫瘍であるが,軽症のものから心不全やDICから重篤となるものまで様々な臨床像を呈する.さらに術後遠隔期に再発,悪性転化,直腸膀胱障害,運動障害などが発症する症例も少なくない.しかし,本疾患はその希少性からこれまで明確な診療指針がなく,一般医家には情報が乏しいのが現状であった.本発表においてはMinds2014に準拠して2017年に作成された仙尾部奇形腫診療ガイドラインと出生前診断された仙尾部奇形腫の妊娠・分娩管理,及び出生後の管理・外科治療について紹介した.

  • 安日 一郎
    2022 年 57 巻 4 号 p. 593-595
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/20
    ジャーナル フリー

     妊娠と糖尿病:克服した課題

     1921年以前,糖尿病女性,とりわけ1型糖尿病女性にとって,妊娠はケトアシドーシスの強力な発症因子であり,「死」に直結していた.1921年のインスリンの発見は,1型糖尿病女性の妊娠の継続を可能とし,そこから「妊娠と糖尿病」の歴史が始まる.1940年代にまず母体死亡が克服されると,周産期死亡(胎児死亡,新生児死亡)の克服が主要なテーマとなる.

     1980年代までの糖尿病合併妊娠関連の周産期死亡は,妊娠末期における突然の胎児死亡と新生児呼吸窮迫症候群(RDS)による早期新生児死亡が2大原因であった.この周産期死亡の克服には,母体の血糖管理の厳格化,すなわち,母体の血糖値を限りなく正常妊婦の血糖値に近づけることによって,糖尿病合併妊娠の周産期死亡率を克服できることを明確に示した.一方,1970年代後半から1980年代前半にかけては,産科的には胎児評価法,特に胎児心拍数モニタリングの普及と胎児エコーの導入,胎児肺成熟検査の開発・普及,新生児医療の分野では新生児呼吸管理法の進歩,とりわけサーファクタント療法の導入,といった周産期医療イノベーションが続々と生まれた時期である.こうして,1型糖尿病合併妊娠の周産期死亡が克服されると,糖尿病母体から生まれた胎児・新生児の種々の合併症の改善が新たな課題となった.

  • 齋藤 滋
    2022 年 57 巻 4 号 p. 596-599
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/20
    ジャーナル フリー

     妊娠高血圧症候群(HDP)の中で,特に妊娠高血圧腎症(Preeclampsia:PE)は,母子ともに予後が不良であり,世界的にみると毎年7万人の母体死亡,50万人以上の新生児死亡を引き起こしている1).さらに,PEを発症した女性や,出生した子供が将来,高血圧,腎疾患,脳血管障害を引き起こすリスクが高くなることが知られており,生涯にわたり管理する必要がある.日本の研究者はよくHDPという用語を使用するが,海外では,妊娠高血圧(GH)はPE発症リスクの高い疾患として理解されており,PEの病因,病態,予知,予防法,治療法が主に研究されている.そのため,HDPを対象とした論文は少なく,多くの論文は最も予後が悪いPEを対象としたものである.このあたりの意識の違いは,日本では主に病因・病態が重要視されてきたが,欧米では予後が重要視されてきたことによる.

  • 芳本 誠司
    2022 年 57 巻 4 号 p. 600-602
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/20
    ジャーナル フリー

     はじめに

     日本の新生児領域においてNO吸入療法(iNO)が始まって30年近く,医療用ガスとして使用可能になってから10年余りたつ.現在では新生児医療に不可欠の管理方法となっている.本講演ではこれまでの歴史をふまえつつ日本における工夫,今後の課題について話題提供させていただいた.

  • 古川 誠志
    2022 年 57 巻 4 号 p. 603-605
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/20
    ジャーナル フリー

     胎児心拍数モニタリング共同監視システムの導入まで

     胎児の低酸素事象による予後不良例はいまだに多い.宮崎県のデータでは,正期産児の脳障害の原因の33%は低酸素事象で(図1),しかもその半数は分娩中の低酸素事象である1).分娩中の低酸素事象の診断には胎児心拍数モニタリングを用いるが,その判読が不適切であれば治療介入が遅れるために予後不良例が生じうる.宮崎県ではローリスク分娩の8割は産科診療所で行われているため,県全域の低酸素事象による周産期予後を改善するには産科診療所に対する胎児心拍数モニタリングの判読支援が必要だった.そこで宮崎県では地域の産科診療所と地域周産期センターとの間をVPN回線で結び,産科診療所における胎児心拍数モニターをリアルタイムに地域周産期センターでも監視できるようにし,異常胎児心拍数パターンの有無を双方でチェックし,適切なタイミングで分娩させるシステムを構築した(胎児心拍数モニタリング共同監視事業:図2).事業化の資金は医療介護総合確保促進法に基づく宮崎県の医療計画の補助金等を利用した.

  • 金子 政時
    2022 年 57 巻 4 号 p. 606-609
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/20
    ジャーナル フリー

     はじめに

     ヒトのCMVはヒトにしか感染しない.健常人が感染してもほとんどが不顕性感染となるが,CMV感染において特に問題となるのが,先天性CMV感染の発生である.先天性CMV感染症は,先天性ウイルス感染のうちで最も頻度が高く,その発生頻度は0.3%〜2.3%(日本においては0.3%)である.胎内感染の発生率は,抗体保有状況が10%上がるごとに0.26%上昇することが報告されている1).感染児に精神発達遅滞,運動障害,難聴をきたすことがあり,先天性CMV感染症は放置できない重要な課題である.

シンポジウム
女性医師活躍推進委員会シンポジウム
  • 和田 和子, 田中 守
    2022 年 57 巻 4 号 p. 813-817
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/20
    ジャーナル フリー

     はじめに

     女性医師活躍推進委員会では,学術集会において過去3回にわたりカフェを開催し,4つのテーマの提言を行った.今回は,本学会の3つの分野それぞれの親学会,つまり,日本産科婦人科学会,日本小児科学会,日本小児外科学会のリーダーをお招きし,本学会の特任理事と対談の形式で,女性医師活躍についての取り組みについて,できるだけ本音を聞き出して討論するシンポジウムを企画した.

     シンポジウムの冒頭で,担当理事の和田より,本学会の会員は約4割が女性で,特にA領域では,45歳未満は女性会員のほうが多いこと,委員会の委員は女性の割合が会員比率に近づいているが,理事,評議員は男性医師優位であること,学術集会において,筆頭演者の男性:女性比率が6:4であるにもかかわらず,座長は9:1であることなど,そして4つの提言について紹介した.事前に大まかな質問事項を用意していたが,対談は想定以上にはずみ,あっという間の2時間であった.総合討論では,働き方改革もキーワードとなり,特に私たちの3つの科では,共通する課題も多く,女性医師の活躍と働き方改革が密接に関連することが改めて示唆された.

     3組のそれぞれの対談,総合討論の詳細を次に順に記す.

NCPR アップデートセミナー
  • 細野 茂春
    2022 年 57 巻 4 号 p. 818-821
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/20
    ジャーナル フリー

     はじめに

     わが国の新生児蘇生法(Neonatal Cardio-pulmonary Resuscitation:NCPR)は国際蘇生連絡協議会(International Liaison Committee on Resuscitation:ILCOR)が作成する国際ガイドライン(Consensus on Science with Treatment Recommendations:CoSTR)に基づいて作成されます.2015年までは5年ごとにCoSTRが作成されるとILCORのWebサイト1)でパブリックコメントを求めた後に修正加筆され確定版としてWebサイトおよびCirculation,Resuscitation誌上に公開されます.2016年以降は臨床課題の検討が終わると同様にパブリックコメントを求め,システマティックレビューが行われました.課題は論文化し,単年ごとに終了した課題を全領域集め,annual CoSTRとして公表する連続的エビデンス評価(Contentious Evidence Evaluation:CEE)に変更されました.その結果,新生児領域では2019年,2020年にそれぞれ2件2),20件3)の課題が公表されました.それらを基に日本周産期・新生児医学会の新生児蘇生法委員会と日本蘇生協議会(JRC)が共同で検討し,2021年3月にはJRCガイドライン2020に基づいた新生児蘇生法テキストを刊行しました.本稿ではNCPR2020変更点について解説するとともにガイドライン作成上解決すべき課題を提示します.

ワークショップ
feedback
Top