2022 年 58 巻 1 号 p. 9-17
「妊娠と糖尿病」というテーマは,周産期医療の主要なテーマの一つであり,その歴史は周産期医療の発展の歴史を包括したテーマでもある.インスリン発見(1921年)以前,1型糖尿病女性にとって妊娠は禁忌であった.「妊娠と糖尿病」の歴史はインスリンの発見とともに始まる.母体死亡を克服した後,妊娠中の母体血糖値を正常妊婦の血糖値の日内変動のレベルまで管理強化することで周産期死亡の克服の目処が立ったのは1980年代であった.今日的な課題は,代表的な周産期合併症(糖尿病性巨大児,先天性胎児形態異常,そして,糖尿病腎症における早発型の重症妊娠高血圧腎症と超早産・低出生体重児)の予防である.妊娠糖尿病も新たなテーマとして加わった.糖尿病女性のプレコンセプション・ケアは,単に先天性形態異常の予防に止まらず,その概念はより包括的なケアとして発展している.こうした今日的課題と展望について概説する.