日本周産期・新生児医学会雑誌
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58 巻, 1 号
日本周産期・新生児医学会雑誌
選択された号の論文の39件中1~39を表示しています
レビュー
  • 中井 章人
    2022 年 58 巻 1 号 p. 1-8
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/10
    ジャーナル フリー

     はじめに

     2020年1月28日,国内で複数のSARS-CoV-2陽性者が発生したことを受け,厚生労働省では指定感染症と定め,厚生労働大臣を本部長に「新型コロナウイルスに関連した感染症対策に関する厚生労働省対策推進本部」(厚労省対策推進本部)を立ち上げ,省内全部局横断的な対応を開始した.

     一方,政府でも1月30日,内閣総理大臣を本部長に内閣官房に新型コロナウイルス感染対策本部(内閣官房対策本部)を置くことを閣議決定し,国民の命と健康を守ることを最優先に必要な対策,措置の取り纏めに入った.

     以後,内閣官房対策本部と厚労省対策推進本部の指示を受け,各都道府県では感染拡大の防止に取り組むことになる.病床確保や患者搬送調整に加え,帰国者・接触者相談センター,一般的な相談窓口,PCRセンター設置など多岐にわたる対応が求められた.

     現時点において,この新興感染症は終息をみることなく継続している.本稿が公表される頃には,また,新たなステージに入り,行政や医療現場の対応も変化している可能性もある.そこで,本稿では妊婦の位置付けと特徴を解説し,現時点までに産婦人科領域で行ってきた様々な対応を時系列に沿って再現し,記録として残すことにする.

総説
  • 安日 一郎
    2022 年 58 巻 1 号 p. 9-17
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/10
    ジャーナル フリー

     「妊娠と糖尿病」というテーマは,周産期医療の主要なテーマの一つであり,その歴史は周産期医療の発展の歴史を包括したテーマでもある.インスリン発見(1921年)以前,1型糖尿病女性にとって妊娠は禁忌であった.「妊娠と糖尿病」の歴史はインスリンの発見とともに始まる.母体死亡を克服した後,妊娠中の母体血糖値を正常妊婦の血糖値の日内変動のレベルまで管理強化することで周産期死亡の克服の目処が立ったのは1980年代であった.今日的な課題は,代表的な周産期合併症(糖尿病性巨大児,先天性胎児形態異常,そして,糖尿病腎症における早発型の重症妊娠高血圧腎症と超早産・低出生体重児)の予防である.妊娠糖尿病も新たなテーマとして加わった.糖尿病女性のプレコンセプション・ケアは,単に先天性形態異常の予防に止まらず,その概念はより包括的なケアとして発展している.こうした今日的課題と展望について概説する.

原著
  • 村川 哲郎, 村瀬 正彦, 福岡 絵美, 井川 三緒, 宮沢 篤生, 池田 裕一
    2022 年 58 巻 1 号 p. 18-23
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/10
    ジャーナル フリー

     はじめに:NICUでワクチン接種後水痘(breakthrough水痘)罹患した養育者が面会したときの標準対応策が存在しない.

     臨床経過:母親が自身のbreakthrough水痘に気づかず,極低出生体重児に面会したため病棟を28日間閉鎖した.水平感染予防策とし,新生児全例にアシクロビルまたはバラシクロビルを投与した.面会を受けた児と,水痘罹患歴および予防接種歴のない母親から出生した児に免疫グロブリン製剤を投与した.面会条件は,水痘の明確な罹患歴,水痘ワクチンの2回接種歴,そして水痘抗体のいずれかが確認できた者とした.この条件に満たない養育者は,水痘抗体価を検査した.

     結果:条件を満たさない養育者は8組,14人存在した.抗体検査したすべての養育者で水痘抗体価陽性を確認した.水平感染例は発生しなかった.

     考察:個別の対策を進めることで水平感染を予防し,NICU内での蔓延を阻止できた.

  • 真野 尚道, 有賀 ひらり, 横山 岳彦, 田中 太平
    2022 年 58 巻 1 号 p. 24-30
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/10
    ジャーナル フリー

     国内のB型肝炎母子感染予防のワクチンフェイラーに対する調査は少ない.本研究では母子感染予防の現状を調査する目的でアンケート調査を行った.一次調査回答率は142分娩施設中42%,1,578小児科標榜施設中26%で,回答のあった施設での出生数162,161人から愛知県内出生数の51%と推測された.二次調査はワクチンの遅延・漏れ,母子感染例,ワクチンフェイラーがあった30施設に送付し,回答率は90%だった.母子感染予防を受けた児は552例で,接種漏れは14例認めた.二次調査を送付した施設も含め33.3%の施設で2回以上抗体価が測定されていた.3例に母子感染を認め,母体のウイルス量は多かった.プライマリーワクチンフェイラーは5例認められたが,いずれもワクチンの追加接種で抗体価は上昇した.今回の調査を通じて,フォローアップ指針の作成が望まれ,追加接種・検査に対する保険診療制度上の問題点も指摘された.

  • 安藤 里沙, 片岡 宙門, 五十嵐 冬華, 今泉 翠, 推名 浅香, 小舘 英明, 古田 祐, 田沼 史恵
    2022 年 58 巻 1 号 p. 31-36
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/10
    ジャーナル フリー

     サイトメガロウイルス(以下CMV)による母子感染はTORCH症候群の中で最も頻度が高く,CMV未感染妊婦の1〜2%が妊娠中に初感染を起こし,その30〜50%に胎児感染を生じるとされている.CMV未感染妊婦に感染予防に関する情報提供を行うことで感染を軽減できた報告があり,実際に情報提供が感染予防に有効か検証した.

     当院で4年間に分娩した2,568例を対象とした.妊娠初期にCMV IgG抗体を測定して未感染妊婦を抽出し,感染予防の啓発を行った.妊娠初期にCMV IgG抗体を測定できた症例は1,283例で,IgG陰性例は380例(29.6%)であった.そのうち,妊娠後期にIgGが陽転化したのは2例(0.5%)であった.本研究でも,感染予防の啓発を受けた妊婦の妊娠中初感染率は従来の報告に比べ低率であった.

  • 藤中 義史, 松永 麻美, 高橋 恵, 瀬谷 恵, 小野山 陽祐, 岡田 真衣子, 高下 敦子, 大橋 祥子, 増永 健, 岩田 みさ子, ...
    2022 年 58 巻 1 号 p. 37-43
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/10
    ジャーナル フリー

     在胎37,38週のEarly term児における母体患者背景,新生児期合併症,入院率について後方視的に検討した.2014年から2017年に当院で出生した正期産児(4,013例)のうち,多胎,先天異常等を除外したEary term児894例,Full term児1,695例を対象とした.結果は,Early term群で母体合併症,帝王切開(特に予定帝王切開)症例が多く,新生児期合併症は,単変量解析ではEarly term群に新生児仮死と低血糖(< 50mg/dL)が多かったが,多変量解析では低血糖のみ有意差がみられた.新生児科入院率および再入院率は“Early term”が独立したリスク因子であった.当院では予定帝王切開を主に38週台で行っているが緊急帝王切開増加リスクは許容範囲内であり(約8%),欧米の推奨するFull termよりもやや早めに設定することは妥当と考える.

  • 和形 麻衣子, 山本 亮, 笹原 淳, 金川 武司, 石井 桂介
    2022 年 58 巻 1 号 p. 44-51
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/10
    ジャーナル フリー

     早産small for gestational age児の生育限界および成育限界を探るため,2010年から2015年に在胎34週未満で出生した出生体重3パーセンタイル未満の単胎を対象に後方視的研究を行った.評価項目は短期予後良好(生後28日時点の生存)と長期予後良好(3歳時の神経学的異常のない生存)の頻度とし,半数以上の児が短期および長期予後良好となる在胎週数,出生体重をそれぞれ生育限界,成育限界とした.対象は61例で,長期予後は55例で評価し,短期および長期予後良好の頻度はそれぞれ92%(56/61),71%(39/55)であった.生育限界は26週,400g,成育限界は27週,400gであり,また短期予後良好,長期予後良好が高率に期待できる在胎週数,出生体重はそれぞれ26週,550g,および27週,650gであった.これらの結果は胎児発育不全の妊娠管理において有用であるかもしれない.

  • 清家 崇史, 川上 浩介, 黑川 裕介, 北川 麻里江, 萩本 真理奈, 小野 結美佳, 藤川 梨恵, 久保 沙代, 浦郷 康平, 德田 諭 ...
    2022 年 58 巻 1 号 p. 52-57
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/10
    ジャーナル フリー

     日本母体救命システム普及協議会(J-CIMELS)のシュミレーション教育が臨床現場へ与えた影響を後方視的に検討した.

     2016年から2019年に当院で加療した産科危機的出血の21症例を,J-MELSの受講群6例と未受講群15例に分類し,有意水準をP < 0.05として統計学的検討を行った.

     患者背景,重症度に有意差は認めなかった.初期対応では緊急招集コール発動,酸素投与で受講群が有意に適切な対応を行っていた.治療ではRBC輸血量,異型輸血で受講群が有意に多かった.発症からの時間経過では産科危機的出血の宣言,RBC輸血開始,FFP輸血開始,止血(出血量50g/h以下)までの各時間で受講群が有意に早かった.

     本研究によりJ-CIMELSのシュミレーション教育が産科危機的出血への対応に有効である可能性が示唆された.母体死亡を減少させるために,さらなる普及が望まれる.

  • 平山 健太郎, 熊谷 健, 土橋 智弥, 鈴木 崇之, 利光 充彦, 杉本 卓也
    2022 年 58 巻 1 号 p. 58-62
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/10
    ジャーナル フリー

     当院NICUにて,CRP測定のpoint of care testing(POCT)対応機器として,Yumizen M100 Banalyst(以下Yumizen M100)を導入し,以前からPOCT対応機器として使用していたラテシエMと中央検査室(中検)で測定したCRP値との相関性や測定誤差について検討した.対象は,2021年4月から8月まで,Yumizen M100とラテシエMで測定した27症例のべ76検査と,中検を加えた3機種で測定した23症例のべ57検査.Yumizen M100で測定したCRP値は,ラテシエMや中検での値と強い相関を示し(r=0.977,0.997),中検で測定したCRP値に対する測定誤差もラテシエMと比較して有意に小さかった(0.044 vs. 0.079,p=0.029).微量検体で迅速,簡便かつ高精度なPOCT対応機器の導入は,NICUにおいて有用である.

  • 西巻 滋, 水野 克己
    2022 年 58 巻 1 号 p. 63-69
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/10
    ジャーナル フリー

     「赤ちゃんにやさしい病院(BFH)」を対象に,ドナーミルクや母乳バンクに関するアンケート調査を行った.産科医61名,小児科医77名から回答を得た.母乳バンクの存在や入院した超早産児・超低出生体重児等にドナーミルクを与えることについて,産科医の70%以上,小児科医の80%以上が知っていた.そして,NICUのあるBFHの小児科医55名に限ると,約85%の小児科医が母乳バンクからのドナーミルクを出生後早期から投与したいと考えていた.しかしドナーミルクの提供までの情報不足,ドナーミルクによる感染やドナーミルクの保存・輸送の問題,母親の気持ちを心配していた.また母乳バンクについての情報の院内掲示やパンフレットの配布などへの協力は可能であった.

     NICUで働く医療者に向けてのドナーミルクや母乳バンクの情報発信が必要であり,またドナーミルクを生後早期から遅滞なく投与できるような方策が望まれる.

  • 上田 和利, 高橋 章仁, 近藤 友里子, 岩﨑 恵里子, 桝田 翠, 砂田 哲, 徳増 智子, 吉崎 加奈子, 澤田 真理子, 林 知宏, ...
    2022 年 58 巻 1 号 p. 70-75
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/10
    ジャーナル フリー

     背景:未熟児動脈管開存症は,生命予後や神経学的予後に影響を与える超低出生体重児の合併症の1つである.本研究では,循環管理の変化が未熟児動脈管開存症などの合併症や神経学的予後に与える影響について検討した.方法:2005年から2017年までに当院NICUに入院した超低出生体重児をインドメタシンの予防投与などの循環管理の変更前後で2群に分けた.他院出生,先天奇形のある児は除外した.母体情報,新生児情報,退院後の発達状況を2群間で比較した.結果:前期群は156名,後期群は220名であった.動脈管手術を要した症例は後期群で増加した.多変量解析では,インドメタシン薬物治療,水分投与量,急性期ステロイド使用,鎮静剤併用が後期群で増加していた.発達遅滞率は,両群間で差はなかった.結語:循環管理の変化により超低出生体重児に対する動脈管手術は増加する可能性があると考えられた.

  • 多賀 悠希子, 川﨑 薫, 安田 枝里子, 川村 明緒, 山口 綾香, 佐藤 麻衣, 最上 晴太, 近藤 英治, 万代 昌紀
    2022 年 58 巻 1 号 p. 76-82
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/10
    ジャーナル フリー

     帝王切開時の子宮筋腫核出術の有用性と安全性を明らかにするために,帝王切開時に筋腫核出術を施行した25症例を4群(漿膜下+筋層内群,漿膜下群,筋層内群,頸部群)に分類し,核出筋腫の最大長径と個数,手術時間,出血量,術中輸血量,ヘモグロビン値変化量(手術前〜手術後最低値),手術後在院日数,合併症の有無を後方視的に検討した.頸部群では他群に比して手術時間,出血量,ヘモグロビン値変化量,自己血返血量が高値であり,手術後在院日数が長い傾向にあった.筋腫核出に伴う合併症については,妊娠13週にも筋腫核出を施行した症例を含め,重篤なものを認めなかった.適切な基準に基づいて手術症例を選び,手術前に自己血貯血をするなど十分な準備を行い,手術中に出血量を減らす工夫を行うことにより,帝王切開時の筋腫核出は安全に施行でき,良好な分娩後経過を得る可能性がある.

  • 三宅 龍太, 成瀬 勝彦, 兵 純子, 岡本 美穂, 山中 彰一郎, 竹田 善紀, 市川 麻祐子, 赤坂 珠理晃
    2022 年 58 巻 1 号 p. 83-87
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/10
    ジャーナル フリー

     産後うつは発症率が10〜15%であるとされる.産褥1カ月健診でのスクリーニングツールとしてエジンバラ産後うつ病質問票(EPDS)などが用いられる.当院では,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行後に面会や分娩立会いを制限しており,妊婦の精神的負担となっている可能性がある.本研究では,COVID-19流行後に当院で分娩した妊婦を研究群,COVID-19流行前に分娩した妊婦を対照群として,産褥健診時のEPDS値を比較した.対照群は920名,研究群は720名であり,EPDSの平均値は対照群と研究群とでそれぞれ3.9±3.9,3.9±4.1であり有意差はなかった.EPDSが9点以上であった褥婦の精神的負担となっている要因にも有意差はなかった.EPDSに差がなかったのは,妊婦がCOVID-19流行の状況にうまく対応できた可能性や,当院の適切なメンタルサポートなどの影響が考えられる.

  • 吉原 達哉, 奥田 靖彦, 笹津 聡子, 小笠原 英理子, 平田 修司
    2022 年 58 巻 1 号 p. 88-91
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/10
    ジャーナル フリー

     子宮奇形合併妊娠は,流産・早産・胎位異常・帝王切開・胎児発育不全といった周産期合併症を増加させるとされているが,検討不十分なものも多い.当院で2009年-2021年に周産期管理を行った症例について,子宮奇形合併妊娠における合併症を後方視的に検討した.子宮奇形合併妊娠は39症例認め,既報の合併症に加えて臍帯付着部位置異常が有意に多く発生することが示された.子宮奇形合併妊娠に多く認める上記の周産期合併症は臍帯付着部位置異常に関連している可能性があると考えられた.

  • 中野 玲二, 豊島 勝昭, 与田 仁志
    2022 年 58 巻 1 号 p. 92-97
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/10
    ジャーナル フリー

     重症先天性心疾患は新生児期に侵襲的な治療を要する重篤な疾患群と定義される.欧米ではパルスオキシメータによるスクリーニングの有効性が報告されているが,国内では普及していない.本研究では国内でのパルスオキシメータによるスクリーニング実施状況および導入に関するアンケート調査を行った.スクリーニング導入の必要性については,「必要である」57%,「どちらかと言えば必要である」34%,「どちらかと言えば不必要である」7%,「不必要である」2%.スクリーニングの実行可能性については,「実施しているので実行可能」23%,「実行可能であり是非実行する」50%,「実行可能であるが実行するか不明」22%,「実行困難であり実行出来ない」1%,「その他」4%.本調査では,パルスオキシメータによるスクリーニングの必要性および実行可能性について肯定的な回答が多いことが明らかとなった.

  • 野呂 歩, 水島 正人, 内田 雅也, 塩野 展子, 里見 達郎
    2022 年 58 巻 1 号 p. 98-104
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/10
    ジャーナル フリー

     2004年1月〜2019年12月に出生し,当院で管理した生存退院超低出生体重児357例で,症候性動脈管開存症(177例)を従属変数,周産期因子や急性期治療項目を独立変数としてロジスティック回帰分析を行った.単変量解析で短い在胎期間,小さい出生体重,初産,母体へのインドメタシン投与,アプガールスコア1分値低値,臍帯動脈血pH高値,呼吸窮迫症候群(RDS),消化管穿孔,高頻度振動換気,容量負荷,カテコラミン投与が有意な危険因子,日齢2以下でのキサンチン製剤投与が抑制因子だった.多変量解析では在胎期間(+1週毎)(0.67:0.53-0.82;p < 0.01),RDS(1.94:1.07-3.55;p=0.03),日齢2以下でのキサンチン製剤投与(0.33:0.16-0.65;p <0.01),カテコラミン使用(2.28:1.19-4.41;p=0.01)が有意な因子に選択された.

  • 秋山 美友, 前田 隆嗣, 谷口 博子, 切原 奈美, 橋本 崇史, 上塘 正人
    2022 年 58 巻 1 号 p. 105-109
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/10
    ジャーナル フリー

     羊水過多の程度と児の予後および原因疾患との関連性と,羊水過多症における出生前診断の精度を明らかにすることを目的とした.2015年から2019年に当院で分娩となった羊水過多症の単胎妊娠84例を対象とし,重症度を第3三半期のamniotic fluid index(AFI)により3段階(軽度:AFI 25〜29cm,中等度:30〜34cm,重度:35cm以上)に分類した.原因疾患が胎児因子である割合は,軽度(20%)と比較し中等度以上(54%)で有意に高かった.1年以内の死亡率は,羊水除去を要した例(55.6%)および染色体異常を有する例(72.7%)で有意に高かった.また,出生前診断の精度は92%と過去の報告より高かった.羊水過多症の重症度が高いほど原因疾患が予後不良の胎児因子である可能性が高く管理に注意を要することが明らかになった.

症例報告
  • 本田 謙一, 橋本 重夫, 櫻井 亮太, 堂 國日子, 菅野 亜紀, 谷脇 絢子
    2022 年 58 巻 1 号 p. 110-114
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/10
    ジャーナル フリー

     分娩第2期の続発性微弱陣痛に対してオキシトシンの点滴をうけていた初産婦でみられた臍帯内出血を報告する.正常胎児心拍数陣痛図(CTG)所見から突然遷延胎児徐脈が出現するようになり,基線細変動も乏しく,子宮底圧迫法を併用した吸引分娩をおこなって児を娩出した.胎盤と臍帯の病理検査をおこなったところ,胎盤には胎児機能不全を直接生じるような異常所見は認められず,臍帯の胎盤に近い部位のワルトンジェリー壁で包まれた内部で出血が生じていた.血管の弾性繊維と膠原繊維をelastica van Gieson染色で,血管平滑筋をsmooth muscle actinに対する抗体を用いた酵素抗体法で調べたところ臍帯静脈壁の一部が断裂していることが確認された.

  • 藤本 英ミレナ, 松林 広樹, 安田 昌広, 若野 泰宏, 戸川 泰子, 杉本 真里, 加藤 丈典, 杉浦 崇浩, 村松 幹司
    2022 年 58 巻 1 号 p. 115-119
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/10
    ジャーナル フリー

     X染色体を過剰にもち表現型が女性である一群をpolyX症候群とよび,このうち49,XXXXXは最も稀である.今回,49,XXXXXに気管気管支軟化症を合併した1例を経験した.特徴的な顔貌と心室中隔欠損症に加え遷延する呼吸障害を認め,気管支鏡検査を施行し気管気管支軟化症と診断した.生後3カ月で心内修復術を施行,経鼻持続陽圧呼吸補助を行い,1歳1カ月現在,本疾患に特徴的とされる成長障害を認めていない.我々の検索した限り49,XXXXXと気管気管支軟化症の合併例は認められず,49,XXXXXの症例で呼吸障害や哺乳障害を認める場合には積極的な気道病変の評価が望まれる.

  • 丹羽 堅太郎, 折坂 誠, 佐々木 晴菜, 玉村 千代, 川村 裕士, 吉田 好雄
    2022 年 58 巻 1 号 p. 120-125
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/10
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     深部静脈血栓症(DVT)と肺血栓塞栓症(PTE)は一連の疾患概念であり,静脈血栓塞栓症(VTE)と称される.妊娠第1三半期にVTEを発症した症例1は,PTE併発のため一時的下大静脈(IVC)フィルターを留置したが,抗凝固療法後にIVCフィルターを抜去し,経腟分娩することができた.妊娠第3三半期にVTEを発症した症例2は,腸骨静膜血栓の器質化・消退を確認できぬまま陣痛が発来してしまい,経腟分娩の直前に一時的IVCフィルター留置を要した.妊娠第1三半期と妊娠第3三半期では,VTEの発症メカニズムや分娩までの時間的猶予が異なり,IVCフィルター留置の適応など,VTEの管理ポイントにいくつかの差異が存在した.

  • 大門 祐介, 木原 美奈子, 西田 剛士
    2022 年 58 巻 1 号 p. 126-130
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/10
    ジャーナル フリー

     Alveolar capillary dysplasia with misalignment of pulmonary veins(ACD/MPV)は,肺毛細血管の発生異常を特徴とし,重度の新生児遷延性肺高血圧(PPHN)を伴い,遷延する進行性の呼吸障害を呈する稀な疾患である.多くの症例で難治性PPHNに心血管系,消化管系,腎尿路系の合併症を伴うことで疑われ,FOXF1遺伝子解析や肺組織学的検査によって診断される.今回我々は肺外合併症を伴わず診断に苦慮し,死亡後の病理解剖による特徴的な所見で診断したACD/MPVの一例を経験した.合併症がなくとも原因不明の難治性PPHN症例では疑うべき一つの疾患であり,適切な遺伝カウンセリングと,生前からの積極的な遺伝子解析を検討すべきと考える.

  • 服部 渉, 加藤 紀子, 白石 佳孝, 小川 舞, 髙木 春菜, 林 和正, 山室 理
    2022 年 58 巻 1 号 p. 131-136
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/10
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     COVID-19は新種のコロナウイルスであるSARS-CoV-2によって発症する感染症である.2019年12月に中国保健機関が発表した湖北省武漢の「原因不明の肺炎」に端を発し,2020年1月には原因が新種のコロナウイルスであることが特定された.ウイルスは中国をはじめ世界中に広がり2020年3月11日にWHOはパンデミック宣言を行った.臨床症状として多くは無症候,軽症のまま治癒するが重症化し人工呼吸管理を要する場合や死に至る例まで様々な病態を示す.現時点で,COVID-19に関して妊婦と胎児に対する影響については報告が少ない.今回,妊娠中にCOVID-19を発症,肺炎に伴い呼吸状態が増悪したため妊娠33週に帝王切開術を施行し,術後さらに呼吸状態が増悪しICU入室,ECMO導入に至った症例を経験したので報告する.

  • 吉田 誠哉, 荒木 雅子, 足立 学
    2022 年 58 巻 1 号 p. 137-141
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/10
    ジャーナル フリー

     妊娠尿崩症は100,000分娩に4例といわれており,その原因の多くは胎盤性である.その報告はあるが,胎盤で過剰産生された抗利尿ホルモン(arginine vasopressin,AVP)分解酵素が臍帯を通じて胎児循環に入り,児の多尿から羊水過多を来した報告は過去1例しかない.今回我々が経験した症例は,体外受精で妊娠成立し,妊娠33週に切迫早産の診断のもと,前医から母体搬送で入院した.羊水過多と腹部緊満が続き,36週に子宮収縮を認めないまま胎児機能不全の診断で緊急帝王切開施行した.術中羊水量が2,000mLを超え術中尿量も400mLに至り,術後妊娠尿崩症を疑い,胎盤の免疫組織染色を行いAVP分解酵素の強発現を確認して診断を確定した.過去の症例報告中,何故上記1例と我々の症例のみが児の多尿から羊水過多を来したのかは不明である.妊娠尿崩症は次回も繰り返す可能性があり,我々の症例で再発した場合は初期から厳重に管理してその病態解明に少しでも近づきたいと考える.

  • 米山 雅人, 佐久間 淳也, 小瀧 曜, 鷹野 真由実, 長崎 澄人, 大路 斐子, 早田 英二郎, 中田 雅彦, 森田 峰人
    2022 年 58 巻 1 号 p. 142-146
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/10
    ジャーナル フリー

     胎児の頭蓋内出血は,1,000例に0.5-0.9例程度と稀な疾患である.今回,母体のビタミンK欠乏により胎児頭蓋内出血を来した一例を経験したので報告する.37歳,3妊0産.双極性感情障害のため内服加療をしていた.妊娠28週6日に精神症状の増悪に伴う摂食障害で受診し,入院管理とした.妊娠30週3日の超音波検査で左頭蓋内占拠性病変を認め,胎児MRI検査で頭蓋内出血と診断した.妊娠30週4日に胎児死亡を確認した.母体の精神状態の増悪を考慮し,全身麻酔下での帝王切開術による死産児の娩出を行った.母体血液検査で凝固能に異常値は認めなかったが,ビタミンK1,K2ともに≦0.05ng/mLとビタミンK欠乏を認め,胎児頭蓋内出血の原因と推測された.本症例のように,母体の血液検査にて凝固能に異常を認めない症例でも,胎児の出血を念頭とした管理が考慮される.また,胎児MRIは胎児頭蓋内出血の詳細の評価が可能であり,家族への病状説明や方針決定の際に有用であると考えた.

  • 青島 友維, 志賀 友美, 森重 健一郎
    2022 年 58 巻 1 号 p. 147-151
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/10
    ジャーナル フリー

     【症例】35歳,初産婦.17歳時に頭部外傷後の中枢性尿崩症に対し,1カ月間のデスモプレシン酢酸塩水和物(dDAVP)投与にて寛解した既往がある.34歳で自然妊娠後,妊娠26週で妊娠糖尿病と診断.同時期から口渇と多飲多尿を認め,妊娠30週頃に悪化し妊娠35週に紹介となった.症状およびバソプレシン(AVP),尿浸透圧の低下より,妊娠36週よりdDAVP点鼻薬を開始したところ,速やかに尿量の減少と尿浸透圧上昇を認め,中枢性尿崩症と診断した.児の発育は週数相当であったが,一時的に羊水過少傾向を認めた.妊娠39週4日で経腟分娩.新生児に明らかな異常所見は認めず.産後はdDAVPを漸減し終了したが症状は再燃しなかった.

     【考察】本症例では過去の外傷による潜在的なAVP分泌低下あるいは妊娠中の分泌増加不全によって相対的なAVPの不足が生じ,中枢性尿崩症が顕在化したと考えられた.

  • 髙橋 秀弘, 野村 智章, 畠中 大輔, 草苅 倫子, 中村 利彦
    2022 年 58 巻 1 号 p. 152-157
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/10
    ジャーナル フリー

     乳児血管腫は早産児,低出生体重児に多い.また,増殖期の中でも特に生後5.5〜7.5週で最も急速に増大することが多い.しかし,低出生体重児や生後5週未満の児に対するプロプラノロール投与の安全性は確立していない.今回早産児・極低出生体重児の乳児血管腫に対し,後遺症のリスクが高いと判断し,早期からプロプラノロールを投与した2症例を経験した.1例は問題なく治療できたが,もう1例は肝機能障害のため6週間で治療を中止した.有効ではあったが安全性には注意が必要であった.早産児や低出生体重児であっても,乳児血管腫の後遺症を防ぐよう早期からプロプラノロールを投与しても良いと思われる.ただし,慎重にモニタリングを行い,副作用には十分注意しなければならない.副作用がみられた場合は投与中止の判断も必要である.

  • 藤野 めぐみ, 中田 久実子, 北野 有紗, 太田 菜美, 八木 重孝, 南 佐和子, 井箟 一彦
    2022 年 58 巻 1 号 p. 158-162
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/10
    ジャーナル フリー

     胎盤嚢胞は胎盤胎児面より発生する嚢胞性病変で,妊娠経過に影響は少ないとされてきたが,胎児発育不全をきたすことがあり,母体の膠原病との関連が報告されている.今回我々は皮膚筋炎合併妊娠で胎盤嚢胞と胎児発育不全を認めた症例を経験した.症例は37歳初産婦,妊娠28週の超音波検査にて胎盤の嚢胞性病変,また925g(-1.6SD)の胎児発育不全,CTGにて高度変動一過性徐脈を認めたため入院管理とした.胎児発育は緩慢で,妊娠30週4日に胎動の減少,CTGにてvariabilityの減少,繰り返す軽度変動一過性徐脈を認めたため,胎児機能不全の診断で緊急帝王切開を施行した.児は1,043gの女児でApgar Score1分値6点,5分値9点で出生後経過に異常はなかった.胎盤嚢胞の発生にはフィブリンの堆積やX細胞の関与が指摘されており,本症例の胎盤病理所見においても嚢胞周囲のフィブリン沈着やX細胞の増生が認められた.

  • 加藤 優里, 川村 裕士, 品川 明子, 折坂 誠, 黒川 哲司, 服部 由香, 吉田 好雄
    2022 年 58 巻 1 号 p. 163-168
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/10
    ジャーナル フリー

     胎児共存奇胎は,全胞状奇胎と正常胎児が共存する稀な双胎妊娠であり,妊娠継続により妊娠高血圧腎症の発症リスクを伴う.我々は,妊娠初期に母体高血圧および蛋白尿を呈した胎児共存奇胎の1例を経験した.母体適応で人工妊娠中絶が選択されたが,子宮内掻爬術後1日目に肺うっ血と胸水貯留の増悪を認め,加療を要した.妊娠初期であっても妊娠高血圧腎症様の徴候を呈するリスクを認識しておくことは,胎児共存奇胎の妊娠母体を管理する上で重要である.人工妊娠中絶が選択される場合も,処置前後の母体のバイタルサインや理学所見のモニタリングを注意深く行い,心不全や呼吸不全に備えるべきである.

  • 永井 亜佑実, 城戸 咲, 末永 美祐子, 嘉村 駿佑, 坂井 淳彦, 藤田 恭之, 加藤 聖子
    2022 年 58 巻 1 号 p. 169-175
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/10
    ジャーナル フリー

     一絨毛膜二羊膜双胎では稀に羊膜自然穿破が発生する.羊膜穿破例では一羊膜双胎と同様の状態になるため胎児期診断が望ましいが,その要因や診断・管理方法は明らかになっていない.臍帯付着部の近接を認めた一絨毛膜二羊膜双胎羊膜自然穿破の2例を経験した.症例1は妊娠25週で羊膜穿破を診断し,臍帯相互巻絡は確認できず,妊娠34週で人工早産とし生児を得た.症例2は妊娠20週で羊膜穿破を診断し,臍帯相互巻絡が強く疑われたが,妊娠34週で人工早産し児は良好に経過した.いずれの症例も両児の臍帯付着部が近く,臍帯相互巻絡は症例2のみで認めた.臍帯付着部の近接は過去報告例を含め90%の頻度で認めており,一絨毛膜二羊膜双胎羊膜自然穿破例に特徴的な所見で,診断やリスク認識の一助となる.羊膜穿破の診断週数や臍帯相互巻絡の有無で胎児リスクの推測はしにくく,妊娠中の診断と慎重な管理が重要である.

  • 水野 友香子, 上林 翔大, 安田 美樹, 増田 望穂, 安堂 有希子, 佐藤 浩, 田口 奈緒, 廣瀬 雅哉
    2022 年 58 巻 1 号 p. 176-180
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/10
    ジャーナル フリー

     死戦期帝王切開術(PMCD)は心肺停止(CPA)妊婦の蘇生を助ける手段であり,CPA後速やかなPMCDの施行が母体予後を改善すると考えられている.計画的硬膜外麻酔下無痛分娩中にCPAとなり当院へ搬送されPMCDを施行し,母児とも救命し得たので報告する.症例は34歳の初産婦,妊娠経過は順調であった.既往歴,アレルギー歴に特記すべき事項はなかった.妊娠39週2日に計画無痛分娩のため硬膜外麻酔下で分娩中にCPAとなり,心拍再開と心停止を繰り返しながら当院へ搬送されPMCDを施行した.子宮筋層縫合後も創部からの出血が持続したためガーゼパッキングとVacuum packing closure法を行い集中治療室に入室したが出血が持続し子宮腟上部切断術を行った.母体は分娩後22カ月の時点で,高次脳機能障害として短期記憶障害を残すが,その他の知的運動機能は正常である.児は,重症新生児仮死で出生し低体温療法を施行されたが,重度低酸素性虚血性脳症による重症心身障害のため人工換気継続中である.今回の経験を今後に生かせるよう,診療チーム間で検討を繰り返し,プロトコールの作成を行ったので紹介する.

  • 山岡 結香, 阿部 結貴, 鈴木 優人, 永田 怜子, 橋本 友美, 菅野 俊幸, 藏本 吾郎, 本橋 卓, 中林 章, 水主川 純, 和田 ...
    2022 年 58 巻 1 号 p. 181-184
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/10
    ジャーナル フリー

     妊娠中に母体がサイトメガロウイルス(CMV)に感染した場合,出生児の0.3%がCMV感染を発症し,精神運動発達遅滞,難聴をきたすことがある.また,潰瘍性大腸炎(UC)合併妊娠におけるCMV感染症の報告は非常に少ない.今回,妊娠中に合併症であるUCが増悪したことを契機に母体がCMV感染症と診断され,児が無症候性先天性CMV感染と診断された症例を経験したので報告する.症例は31歳,2妊1産,UC合併.妊娠28週頃よりUCの症状が再燃し,妊娠31週からメサラジン内服を開始した.CMV腸炎除外目的に施行した血液検査でCMV感染症と診断された.妊娠38週に経腟分娩で出生し,児は無症候性先天性CMV感染と診断された.日齢6からバルガンシクロビルを6週間投与し,尿中CMVは陰性化した.生後1年時点で精神運動発達は順調である.本症例では児は出生後速やかに先天性CMV感染症と診断し治療を行うことができた.

  • 栁下 康博, 松岡 雄一郎, 小林 智恵, 長谷川 典子
    2022 年 58 巻 1 号 p. 185-189
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/10
    ジャーナル フリー

     症例は在胎39週,体重2,928g,経腟分娩で出生した女児.日齢1に直接授乳が開始され,日齢16から母の乳頭,乳輪周囲に水疱,児の口唇に丘疹が出現した.日齢23に口唇の丘疹は水疱へ変化し哺乳不良と体重減少を認めた.臨床経過より乳房からの単純ヘルペスウイルス(HSV)感染と考え2週間のアシクロビル(ACV)経静脈投与を行い,児の症状は改善,神経学的後遺症なく経過した.児の口唇病変のHSVに対するPCR検査が陽性であり,母の乳房病変のHSV抗原検査が陽性であることから,乳房からの表在型新生児ヘルペスと診断した.6カ月間のACV抑制療法を行い,1歳5カ月時点で児の経過は良好である.本症例は母の乳房に病変が出現していたことを確認し早期診断ができた.授乳中の母と児にかかわる医療従事者は,母の外陰部や口唇所見だけでなく乳房所見にも注意することが大切である.

  • 横川 真理, 角 至一郎
    2022 年 58 巻 1 号 p. 190-194
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/10
    ジャーナル フリー

     Noonan症候群(Noonan syndrome;NS)は特異顔貌,心疾患,リンパ管形成異常などを特徴とする先天奇形症候群である.症例は在胎29週で右胸水と肝腫大を指摘され,在胎30週より胸水貯留が進行し,在胎32週2日に胎児機能不全のため緊急帝王切開で出生した.強い皮下浮腫,特異顔貌,心房中隔欠損症がありNSを疑ったが,NSで報告のない肝臓および門脈形態異常を伴う肝腫大と肝線維化マーカー上昇があった.遺伝子解析でPTPN11変異がありNSと診断した.出生時より末梢血で単球の増加を伴う白血球増加と芽球の増加,血小板減少があったが,自然寛解したためNoonan症候群関連骨髄増殖性疾患と診断した.胎児期に胸水と肝腫大がある場合,染色体・遺伝子異常を鑑別に挙げるとともに,骨髄増殖性疾患や肝臓および門脈の形態異常の合併を考えて血液学的異常や肝線維化マーカーを含めた肝機能を評価する必要がある.

  • 森川 友樹, 糸島 亮, 小川 亮, 小田 新, 廣間 武彦, 中村 友彦
    2022 年 58 巻 1 号 p. 195-199
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/10
    ジャーナル フリー

     妊娠初期の梅毒血清検査が陰性で当院への新生児搬送時には未診断であった先天梅毒の症例を経験した.母親は22歳,妊娠13週の梅毒血清検査は陰性だったが,同時期に外陰部に潰瘍を認め,診断に至らず軽快していた.児は33週5日,出生体重1,586g,緊急帝王切開で出生した.重症新生児仮死となり当院へ新生児搬送となった.鞍鼻,全身の皮膚の落屑,肝脾腫を認め,児の梅毒血清抗体価の上昇から先天梅毒と診断した.出生時よりなんらかの先天感染を疑い,Ampicillin(ABPC),Cefotaxime(CTX)による抗生剤治療を開始していたが,日齢4の先天梅毒の確定診断後よりBenzylpenicillin(PCG)に切り替え10日間治療した.後障害なく退院し1歳半時点で成長発達は正常である.近年,若年女性の梅毒および先天梅毒の報告数が増加しており,妊娠初期以降の梅毒感染にも注意する必要がある.

  • 羽生 直史, 奈良 昇乃助, 前田 朋子, 西端 みどり, 西袋 麻里亜, 菅波 佑介
    2022 年 58 巻 1 号 p. 200-204
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/10
    ジャーナル フリー

     症例は在胎31週6日,体重1,816gで出生した早産児であり,全身管理のためにNICUへ入院した.日齢2より非抱合型の高ビリルビン血症に対して光線療法を開始し,日齢3に一度中止としたが,ビリルビンの再上昇を繰り返し,約2カ月にわたり間欠的な光線療法を要した.臨床経過よりビリルビンUDP-グルクロン酸転移酵素(UGT1A1)異常を疑い,日齢48よりフェノバルビタール(PB)2mg/kg/日の内服を開始した.その後ビリルビン値は減少傾向となり,日齢64(修正41週0日)に退院となった.UGT1A1遺伝子解析の結果,患児はG71R(Glu71Arg)のミスセンスバリアントのホモ接合体であることが判明した.UGT1A1異常症による母乳性黄疸が疑われる場合には遺伝子検査を考慮する.早産児の遷延性黄疸で治療の判断に迷った際には,遊離ビリルビン値(アンバウンドビリルビン:UB)を用いた評価が有用である.

  • 澤村 桃子, 松島 智恵子, 北村 律子, 飯尾 潤, 西田 吉伸
    2022 年 58 巻 1 号 p. 205-210
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/10
    ジャーナル フリー

     患児は出生時から全身に巨大色素性母斑,頭頸部に血管腫,脂腺母斑を認めた.入院後に施行した頭部MRI検査では,T1強調画像で小脳・脳幹部にメラニン沈着と考えられる高信号域を認め,神経皮膚黒色症と診断した.貧血・血小板減少が進行し,連日の輸血を要した.血球減少の原因検索のため施行した造影CT検査,造影MRI検査,腹部超音波検査で血管腫を伴わない肝脾腫と,両側頸部から縦隔,後腹膜,腸間膜に広範にリンパ管腫を疑う像を認めた.自己免疫疾患を考慮し,免疫グロブリン投与を行うも効果は得られなかったが,ステロイドパルス治療を行ったところ一定の効果を得た.しかし原因疾患の特定には至らず,救命には至らなかった.臨床経過について報告する.

  • 深間 英輔, 野村 智章, 畠中 大輔, 草苅 倫子, 高橋 秀弘, 中村 利彦
    2022 年 58 巻 1 号 p. 211-215
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/10
    ジャーナル フリー

     症例は選択的帝王切開で出生した女児.新生児一過性多呼吸に対し経鼻的持続陽圧呼吸療法(nCPAP)で加療中であったが離脱できず,日齢10での気管支ファイバー検査で舌根沈下に伴う咽頭虚脱と診断し,nCPAP継続中であった.日齢19に発熱,右耳下腺部の腫脹,発赤,熱感を認め急性化膿性耳下腺炎と診断した.抗菌薬投与を行い合併症なく治癒した.急性化膿性耳下腺炎は口腔内からステノン管を通じて耳下腺への上行感染が原因で生じる.新生児期での発症は稀で,nCPAP中に生じた例の報告はない.今回,nCPAP管理中に急性化膿性耳下腺炎を発症した一例を報告する.新生児期では発症頻度こそ少ないが,nCPAP管理を必要とする重症な舌根沈下による咽頭虚脱のような上気道閉塞を合併する新生児では,急性化膿性耳下腺炎の発症に注意を要することが示唆された.

  • 田野 千尋, 林 誠司, 松沢 麻衣子, 松沢 要
    2022 年 58 巻 1 号 p. 216-220
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/10
    ジャーナル フリー

     症例は在胎39週4日,出生体重2,679gで経腟分娩にて出生した男児である.自然妊娠による一絨毛膜二羊膜(MD)双胎であったが,妊娠14週で一児胎内死亡(IUFD)している.出生時に児の腹部に広範な皮膚欠損を認めたためNICUに入院管理となった.先天性皮膚欠損と診断し,患部にワセリン塗布とガーゼ保護による保存的治療を行った.日齢2に患部から黄色の浸出液が出現し,改善を認めなかったため日齢3にアクアセルAg®による保存的治療に変更した.その後浸出液は消失し,患部は上皮化したため日齢18に退院した.退院後1カ月で患部は完全に瘢痕化した.MD双胎の一児IUFDの場合,まれではあるが生存児に本疾患を呈することがあり注意を要すると思われた.また,本症例では湿潤環境を保持し,抗菌作用を有するアクアセルAg®が奏効した.

  • 伊藤 道子, 後藤 盾信, 太田 隆徳, 周山 めぐみ, 馬路 智昭, 牧 兼正, 牛嶌 克実, 坂 京子
    2022 年 58 巻 1 号 p. 221-225
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/10
    ジャーナル フリー

     本症例は低ホスファターゼ症の児で,出生直後より呼吸障害を認め日齢13よりビタミンB6依存性痙攣を生じた.血清ALP値の著明な低下,肋骨菲薄化と四肢のくる病様変化より周産期重症型HPPと診断した.痙攣と脳波所見はピリドキシン投与後,速やかに消失した.日齢22よりALP酵素補充療法(ERT)を開始し,生後2カ月で人工呼吸器を離脱した.骨石灰化が進み,生後3カ月でくる病様所見はほぼ消失し,生後5カ月で退院した.周産期重症型HPPの多くは責任遺伝子がホモ接合性変異の報告であるが,本症例はc.1559delTのヘテロ接合性変異であり,着目すべき点と考えた.HPPの臨床経過はALPL遺伝子バリアントからある程度予測可能であるが,同じ遺伝子バリアントの患者でも症状の重症度は異なる可能性がある.遺伝型と臨床経過との関連を評価する上でも今後の発達発育および歯科的フォローアップが重要である.

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