1994 年 30 巻 1 号 p. 85-89
心不全にて発症した先天性腹壁動静脈瘻の1新生児例を報告した. 流入動脈は両側の下腹壁動脈とその分枝,流出静脈は臍静脈であった. 内科的治療では心不全の改善が見られず,大動脈造影にて診断確定後,外科的に流入動脈と流出静脈の結紮を行った. 手術にて心不全は著明に改善したが,動静脈瘻内の血液欝滞のため血漿漏出が起こり,高度の血液濃縮と肝逸脱酸素上昇を認めた. 再手術にて臍静脈の結紮解除を行うと,全身状態も改善し,この後軽快退院した. 術直後には動静脈瘻の残存を認めたが,術後3ヶ月目には,超音波検査でも臍静脈内の異常血流は認められなくなった. 腹壁に存在する先天性動静脈瘻は非常に稀で,これまで英文報告が3例のみ,本邦では初めての報告と思われる. 治療は,過度の侵襲を避け心不全を軽快させるため,完全切除はせずに流入動脈結紮のみとしたが,適切な術式であったと考えた.