抄録
抗凝固剤としてメシル酸ナファモスタット (FUT) を用い,Extracorporeal membrane oxygenation (ECMO) を行った左側先天性横隔膜ヘルニア症例を経験した. 胎児診断例で生後4時間にヘルニア修復術を行った. 生後26時間に肺胞気動脈血酸案分圧格差を指標に ECMO を開始した. ECMO 開始後30,33時間に腹腔内出血のため開腹止血術を行った. 更に72時間後に胸腔内出血がみられ,開胸止血術を行った. この手術に先立ち,出血制御のため抗凝固剤をヘパリンにより FUT に変更した. その後,FUT を2.0〜3.4mg/kg/h. で投与し,活性凝固時間を200秒前後に維持した. FUT 投与によると思われる高カリウム血症がみられたが,カリウム投与量を減じることで対処可能であった. FUT を用いた ECMO を出血なく4日間継続でき,呼吸状態は改善し,生後8日に ECMO より離脱した. 以上の経験より,FUT は出血傾向をきたしにくく,ECMO 施行中の抗凝固剤として有用と考えられた.