抄録
小児の大腿ヘルニアの報告は少なく稀である. 今回我々は幼児の大腿ヘルニアの1例を経験したので報告する. 症例は4歳男児で,右そけい部の膨隆を主訴として来院した. 右の外そけい輪のやや外側に,腹圧を加えると膨隆し圧迫すると容易に消失する約2.5×2.5cm 大の軟かい腫瘤を認めた. 大腿ヘルニアの疑いで手術予定となった. 手術所見では,先ず精索にヘルニア嚢が無い事を確かめて,次にそけい靭帯の外側を検索した. そけい靭帯の下方より膨出し脂肪に包まれた長さ約4cm のヘルニア嚢を確認した. ヘルニア嚢は可及的に高位結紮し切離した. ヘルニア門は径約10mm 大であったのでそけい靭帯と恥骨靭帯を縫合して修復した. 術後1年経過したが再発はない. 本邦における小児の大腿ヘルニアの報告は1993年末までに28例を散見するにすぎない.