2001 年 37 巻 2 号 p. 275-282
【目的】近年, β-カテニン遺伝子変異などが細胞内β-カテニン蓄積を起こし, 下流の転写が恒常的に活性化され発癌に関与し得ることが注目されている.小児腫瘍では肝芽腫においてβ-カテニン遺伝子変異が高率にみられることが報告されていた.また, β-カテニン蓄積により転写亢進を受けるとされる標的遺伝子も報告されているが, 肝芽腫における標的遺伝子に関する報告はなされていない.今回, 肝芽腫において標的遺伝子の一つとされるmatrix metalloproteinase-7(MMP-7, matrilysin)の発現に関して検討した.【方法】当施設で治療を行った肝芽腫16例を検索対象とした.なお, これらの症例すべてにおいてβ-カテニン蛋白の異常蓄積が確認されていた.これらの症例を対象に(1)real-time RT-PCRおよび(2)免疫組織化学染色にてMMP-7の発現を検討した.比較対象としては非腫瘍部肝臓組織11例を用いた.【結果】肝芽腫16例中4例(25%)にMMP-7のmRNA発現亢進を認めた.また, これら4例にはMMP-7の蛋白レベルでの発現亢進を認め, 組織型では3例がmixed type, 1例がepithelial typeであった.【結論】一部の肝芽腫においてはβ-カテニン異常の結果腫瘍発生に関連しうるMMP-7の発現が誘導されている可能性が示唆された.