抄録
【目的】小児の片側鼠径ヘルニア症例において,術後の対側鼠径ヘルニア出現の可能性は問題となるところである.われわれは腹腔鏡を使って,初回手術時に対側鼠径ヘルニア出現の可能性を的確に診断することが可能か否かを検討した.【対象および方法】腹腔鏡を用いて,対側内鼠径輸の観察をすることに家族が同意した片側鼠径ヘルニア患児71人.患側の腹膜鞘状突起の高位結紮施行前に,30度または45度の斜視型腹腔鏡(5mm)にて,男児は精巣動静脈と輸精管を,女児は円靭帯を目印として内鼠径輸を観察する.【結果】腹膜鞘状突起 開存13例(18.1%),腹膜鞘状突起 閉鎖58例(内2例は,後に対側鼠径ヘルニア出現) Sensitivity 86.7%, Specifisity 100%【考察】片側鼠径ヘルニアの患児に対して,全例対側を検討すると,約50%の症例に腹膜鞘状突起の開存を認めると言われている.しかし実際対側の鼠径ヘルニアが出現する可能性は15〜20%であり,これを見極めるのが重要である.われわれは腹腔鏡を用いて対側の内鼠径輸を観察し,Chinらの言うType III,明らかに内鼠径輸が開いているものに対してのみ手術を行い,初期の2症例以外False negativeを経験していない.この方法がある程度正確に将来的に鼠径ヘルニアを発症する症例をとらえうる有効な方法であると考える.