2016 年 52 巻 5 号 p. 1051-1055
症例は6 歳男児.WAGR 症候群で当院小児科に通院されていた.経過観察中に血尿および左側腹部腫瘤が出現し,腹部エコーで左腎に最大径10 cm の腫瘍性病変が認められ,Wilms 腫瘍と診断した.左腎摘出術を予定したが,経過中に発熱と炎症反応上昇を認めた.経皮的心房中隔欠損閉鎖術後であり,諸検査より感染性心内膜炎が疑われ手術は延期とし,抗菌薬治療と並行し術前化学療法(JWiTS EE4A)を行う方針とした.化学療法16 日目より徐々に貧血を認められたが(Hb 7.6 mg/dl),抗癌剤による骨髄抑制と判断し観察を行った.化学療法20 日目に急激な貧血の進行を認め(Hb 4.4 mg/dl),造影CT で腫瘍内に多発する血管外漏出所見を認め,腫瘍内出血と判断した.抗凝固療法中であったこと,腫瘍への流入血管が複数の動脈から認められたことから,塞栓術などによる出血コントロールは困難と判断し,緊急左腎摘出術を施行した.本症例の治療経過を踏まえて,術前化学療法中の腫瘍内出血の対応を文献的に考察し報告する.