【目的】待機的虫垂切除術(以下IA と略す)は,周術期リスクを低減することができ有用であるとの報告が散見され,特に膿瘍形成性虫垂炎に対するIA は広く受け入れられているが,それ以外の症例群に対する適応は未だ議論がつきない.今回我々は,当院で蜂窩織炎性または壊疽性虫垂炎と診断された症例のうちIA の適応とした症例を緊急手術症例と比較し,その安全性,妥当性を検討したので報告する.
【方法】当院では発症から48 時間以上経過した蜂窩織炎性または壊疽性虫垂炎と診断された症例に対し,2012 年は緊急手術(以下E 群)を,2013 年はIA(IA 群)をそれぞれ選択し治療した.2012 年1 月1 日から2013 年12 月31 日に当院で治療した上記虫垂炎2 症例群について,年齢,性別,疼痛コントロール,血液データ所見,手術時間,出血量,入院期間や合併症の有無を後方視的に検討した.
【結果】対象は20 例で,IA 群,E 群ともに10 例であった.手術時間はIA 群58.6 分,E 群96.7 分で,IA 群はE 群に比べ有意に短かった.手術合併症はE 群で2 例あり,IA 群では0 例であった.IA 群の保存的加療期間は8.8 日で,退院後待機中に症状の再燃は認めなかった.総入院日数はIA 群12.8 日,E 群10.2 日で有意差はなかった.
【結論】発症から48 時間を経過した症例に対するIA により,周術期リスクの高い症例を緊急手術に劣らぬ総入院日数で,安全に治療し得た.発症から一定の時間が経過した症例に対してもIA を適応拡大しうることが示唆された.
【目的】消化管閉鎖症に対するtransanastomotic tube(以下TAT と略す)を使用した術後早期からの経腸栄養の開始は入院期間の短縮や術後合併症の減少につながると多く報告されている.しかし,先天性十二指腸閉鎖症・狭窄症に対するTAT の有用性に関する報告は少ない.当院では2012 年より先天性十二指腸閉鎖症・狭窄症に対してTAT の使用を開始しており,その有用性について検討した.
【方法】2007 年1 月以降2014 年12 月までに当院において先天性十二指腸閉鎖症・狭窄症と診断された症例を対象として後方視的検討を行った.2007 年から2011 年のTAT 非使用群7 例(NT 群)と2012 年以降のTAT 使用群6 例(T 群)の2 群に分けて検討し,術後のfull feeding までの日数,術後中心静脈カテーテル留置期間,最大体重減少率,入院期間を後方視的に比較した.
【結果】術後のfull feeding までの日数は,T 群がNT 群に比べて有意に短縮していた(中央値13 日vs 6.5 日P=0.018).特に十二指腸に拡張が残存し術後に機能的通過障害を生じるような症例に対してTAT は安定してfull feeding までの日数を短縮する.また,中心静脈カテーテル留置期間も有意に短縮した(中央値14 日vs 11.5 日P=0.049).一方,入院日数,光線療法の日数はT 群で短い傾向にあったが,有意差は認めなかった.
【結論】TAT はfull feeding までの日数,中心静脈カテーテルの留置期間を有意に短縮し,十二指腸閉鎖症・狭窄症に対して有用と考えられる.
【目的】先天性囊胞状腺腫様奇形(以下,CCAM)は,新生児期に呼吸障害を発症し手術が必要となるものも少なくない.当施設で経験した呼吸障害により新生児期に手術が必要となった患児を後方視的に検討し,出生後の管理と治療について考案した.
【方法】2007 年以降に呼吸障害で新生児期に手術を行った6 例の周産期および周術期の臨床経過の特徴と外科的治療(時期と術式)に関して検討を行った.
【結果】全例が出生前診断をされており,性別は男児5 例,女児1 例であった.Stocker 分類ではI 型3 例,II 型2 例,III 型1 例で,占拠部位は左上葉1 例,左下葉3 例,右下葉が2 例であった.全例が出生直後から頻呼吸や陥没呼吸などの呼吸症状が出現し,胸部X 線写真上も縦隔の偏位を認めた.4 例で呼吸障害が急激に進行し,そのうち1 例目が挿管後に出生後34 時間で手術を行い,残り3 例はI 型で出生5 時間以内に手術となった.また,1 例は一度頻呼吸が改善した後に再増悪し日齢9 に手術を行い,III 型の1 例が頻呼吸の持続で日齢5 に手術となった.術式は左上葉切除が1 例,左下葉切除が3 例,右下葉切除が2 例で,平均手術時間145 分,平均出血量14 ml で術後平均入院期間は30 日であった.術後合併症は,胸水1 例,気胸1 例,縦隔気腫1 例で,2 例が新生児遷延性肺高血圧症(以下,PPHN)を合併した.
【結論】CCAM は出生後の急性呼吸不全も考慮し計画的に分娩させ,常に手術可能な体制をとることが重要である.また,出生後早期の呼吸不全に対する人工呼吸器管理は症状を増悪させる危険があり,挿管し呼吸管理を行うより外科的治療が優先される.手術はまず,囊胞切開や切除を行い囊胞の減圧を行うことが重要である.
【目的】胎児診断の向上により胎児期に先天性囊胞状腺腫様奇形(以下CCAM)を指摘される例が増加しているが,治療方針や治療術式は画一的なものはない.今回は当科の経験症例を基に,術式や手術時期を後方視的に検討した.
【方法】2002 年から2014 年までに当科にて治療したCCAM の11 例を対象とした.検討項目は病型・術式・臨床所見・手術時期・術後合併症とした.また出生前診断あり(以下P 群),なし(以下N 群)と,手術時期を9 か月前後で分類して検討した.
【結果】内訳はStocker Type I 7 例,Type II 4 例であった.手術術式は10 例で肺葉切除術を,1 例に肺部分切除術を施行した.P 群が8 例,N 群が3 例であり,P 群のうち他院経過観察の1 例(1 歳8 か月)と外来受診を自己中断していた1 例(2 歳6 か月)を除いた6 例は9 か月(中央値103 日)までに根治術を施行した.そのうち緊急手術は2 例で13 日,101 日に施行し,他の4 例は術前の呼吸器合併症は認めなかった.N 群のうち有症状からの発見は2 例(気胸,陥没呼吸)であり,1 例は偶然発見された.緊急手術は1 例で19 日に施行した.全3 例の緊急手術は,Type I でありエア・トラップによる病変部増大での呼吸状態悪化が原因であった.術後合併症は1 例に横隔神経麻痺,2 例に漏斗胸を認めたが呼吸器症状を認める例はなかった.
【結論】有症状のCCAM の場合は可及的速やかな手術が推奨されるが,無症候性の場合は呼吸器合併症や悪性化を避け,肺の発育を促すためにも9 か月頃までに手術を施行することが望ましいと考えられた.しかし,3 か月以下の手術では術後合併症を認めており3 か月以降の手術が望ましいと考えられた.
【目的】当院で経験した先天性心疾患に合併した壊死性腸炎(以下本症)についてその臨床像について検討した.
【方法】過去21 年間に当院で経験した6 例を対象とした.対象について患者背景,心奇形の種類,心奇形への外科的またはカテーテル治療の有無および日齢,治療前後および発症時の血行動態の変化,発症時日齢,発症前の低酸素事象の有無,発症時哺乳の有無,発症から手術までに要した日数,初回手術術式,壊死腸管の部位,転帰を検討した.
【結果】出生体重,在胎週数は2,614 g(433~3,516 g),38 週4 日(27 週0 日~40 週5 日),男児が4 例であった.全例チアノーゼ性心疾患を有し,4 例に発症前に外科的あるいはカテーテル治療が行われ,治療時日齢は8.5(0~27)で,発症直前にショック,無酸素発作を各1 例認めた.外科的またはカテーテル治療を行った4 例では,治療後に血中酸素飽和度が全例上昇し,3 例で血圧が低下していた.発症時の日齢は12(5~27)で全例が新生児期の発症であり,5 例は哺乳していた.初回手術はドレナージのみ1 例,腸瘻造設2 例,腸瘻造設+ドレナージ2 例,腸瘻造設+壊死腸管切除1 例であり,発症から手術まで中央値で8 日(1~44 日)を要した.壊死腸管は全結腸2 例,横行結腸~下行結腸1 例,下行結腸~S 状結腸2 例,横行結腸のみ1 例であった.6 例中5 例が生存していた.
【結論】満期産児であっても,チアノーゼ性心疾患を合併し腸管血流の減少をきたしうるイベント後,比較的短時間で本症を発症する可能性がある.また適切な外科的介入の時期,方法により先天性心疾患を合併した本症の予後は良好と推察された.
出生前,出生後,葛西手術後において胆管形態の経時的な変化がみられた胆道閉鎖症の女児例を報告する.出生前に肝下面にI cyst 様囊胞を認めるも妊娠経過中に囊胞が消失し,生後は黄色便を認め,腹部超音波検査でも胆管拡張を認めなかった.生後2 か月時に灰白色便と黄疸を指摘され当科を紹介され,生後67 日にIIIb1ν型胆道閉鎖症として葛西手術を施行した.生後6 か月時に肝内胆管の拡張を来したために肝内胆管空腸吻合術を施行し,葛西手術後3 年を経過した現在,肝内胆管の拡張はみられず,黄疸はなく肝機能も正常である.出生前に胆管拡張を来した例では,出生後に胆管拡張が消失した場合でも厳重な観察を行う必要があり,また,葛西手術後に肝内胆管の拡張を来しても,胆管吻合が可能な例では再採掘術あるいは再々採掘術など積極的な治療を行う意義がある.
女児鼠径ヘルニアにおいて両側の卵管滑脱・卵巣脱出に加えて子宮も脱出しているヘルニアはまれであり,自験例を含めこれまで16 例の報告しかない.そのうち13 例が左側発生である.今回我々は報告の少ない右側発生の同症例を経験したため報告する.症例は在胎31 週,1,147 g で出生した低出生体重児,日齢5 に右鼠径部の膨隆を指摘され,超音波検査にて子宮および卵巣を内容とした右鼠径ヘルニアと診断された.月齢1 で右鼠径ヘルニア根治術を施行し,脱出臓器は子宮および両側付属器であった.術後経過は良好であり,術後7 か月が経過するが,再発は認めていない.報告例全例が乳児期早期の発症であり,子宮・卵巣の骨盤腔への固定が未熟であることが発症機序に関連すると考えられた.超音波検査で子宮と患側卵巣の脱出は観察されやすいが,対側卵巣脱出の検出は困難であり,手術の際に留意する必要がある.
症例は6 歳男児.WAGR 症候群で当院小児科に通院されていた.経過観察中に血尿および左側腹部腫瘤が出現し,腹部エコーで左腎に最大径10 cm の腫瘍性病変が認められ,Wilms 腫瘍と診断した.左腎摘出術を予定したが,経過中に発熱と炎症反応上昇を認めた.経皮的心房中隔欠損閉鎖術後であり,諸検査より感染性心内膜炎が疑われ手術は延期とし,抗菌薬治療と並行し術前化学療法(JWiTS EE4A)を行う方針とした.化学療法16 日目より徐々に貧血を認められたが(Hb 7.6 mg/dl),抗癌剤による骨髄抑制と判断し観察を行った.化学療法20 日目に急激な貧血の進行を認め(Hb 4.4 mg/dl),造影CT で腫瘍内に多発する血管外漏出所見を認め,腫瘍内出血と判断した.抗凝固療法中であったこと,腫瘍への流入血管が複数の動脈から認められたことから,塞栓術などによる出血コントロールは困難と判断し,緊急左腎摘出術を施行した.本症例の治療経過を踏まえて,術前化学療法中の腫瘍内出血の対応を文献的に考察し報告する.
会陰部脂肪腫はまれな疾患である.今回,われわれは生直後に有茎性腫瘤として発見された肛門部の脂肪腫を経験したので報告する.症例は生後21 日の男児.生下時より肛門部に腫瘤を認めていたが.生後20 日に暗赤色に変化し出血が危惧され紹介となった.腫瘤は有茎性ポリープ様で皮膚より隆起しており,頭部は暗赤色を呈していた.超音波検査で内部は脂肪成分であった.直腸,仙骨との交通や直腸肛門奇形を認めないことを確認し,日齢25 に摘出術を行った.病理学検査の結果は脂肪腫であった.術後6 か月を経過して再発などはない.会陰部腫瘤の鑑別診断として,human tail,仙尾部奇形腫,血管腫,脂肪芽腫などが挙げられるが,診断には組織学的診断を要する.いずれも手術に際しては,直腸,肛門括約筋,脊髄との位置関係が問題となるが,本症例では術前評価により関連は否定され,早期に安全に手術を行うことができた.
症例は6 歳女児.3 歳時に黄疸の精査で遺伝性球状赤血球症(HS)と診断された.4 歳時より半年に1 回位の頻度で右上腹部痛があり,腹部超音波検査では胆泥が確認されていた.6 歳時に腹痛が頻回となり,黄疸の増強と画像検査にて脾腫と総胆管内の胆泥貯留を認め,当院に紹介入院となった.内視鏡的経鼻胆道ドレナージ・乳頭括約筋切開術により胆泥はドレナージされたものの黄疸は持続した.その後,腹腔鏡下脾臓・胆囊摘出術を施行.術後腹腔内出血を生じ,経カテーテル的動脈塞栓術を行ったが完全な止血は得られず,開腹止血術を行った.その際血液凝固能の著明な低下を認めた.止血術後,黄疸は漸減したが遷延した.精査にてビリルビンUDP-グルクロン酸転移酵素(UGT1A1)の遺伝子変異を認め,体質性黄疸の合併と診断した.HS で幼少期に胆泥・胆石や遷延性黄疸を生じる症例では,体質性黄疸を合併している可能性があると考えられた.
症例は9 歳女児,当院受診5 か月前より貧血を認めており経過観察されていた.腹痛と倦怠感が出現し,血液検査上の著明な貧血を認めたため,当院に紹介入院加療となった.精査の結果,胃角部後壁の粘膜下腫瘍(GIST)が疑われた.腹腔鏡・内視鏡合同胃局所切除術(laparoscopic and endoscopic cooperative surgery: LECS)を第24 病日に試みたが,術中の内視鏡所見で腫瘍頂部に潰瘍が残存していたため,腫瘍の腹腔内散布を回避するために創外での胃局所切除術を施行した.術後経過は良好であり,9 日目に退院した.病理および遺伝子検査の結果,高リスクの胃GIST と診断したが,c-kit(exon 9, 11, 13, 17),PDGFRA(exon 12, 14, 18),BRAF(exon 15)の遺伝子変異なく,SDHB 免疫染色も陰性であることから術後補助化学療法は行わない方針とした.術後25 か月無再発にて経過している.
症例は8 歳,男児.来院当日の朝から突然発症の下腹部痛で当院へ救急搬送された.腹部造影CT 検査でfree air および骨盤内の腹水貯留を認め消化管穿孔による汎発性腹膜炎の診断で緊急手術を施行した.診断的腹腔鏡で手術を開始しMeckel 憩室穿孔と診断して腹腔鏡補助下に憩室切除および洗浄ドレナージを行った.病理組織学的検査所見では小腸粘膜の胃底腺化を認め粘膜移行部での穿孔であった.消化管穿孔による汎発性腹膜炎において腹腔鏡手術は診断的・治療的に意義が大きいと考えられた.
小児の外傷性主膵管損傷は稀で,いまだ標準的治療が確立していない.今回,腹部鈍的外傷により主膵管損傷を伴った小児膵外傷を経験したので報告する.症例は6 歳男児,転倒後に上腹部痛が出現し,CT 検査で膵体部の断裂像を認め,日本外傷学会分類IIIb 型と診断した.膵管ステント留置を試みたが困難であった.腹膜炎症状を認め,外科的治療の適応と判断し開腹ドレナージを施行した.術後5 日目に腹膜炎症状とドレーン排液の膵酵素の上昇を認め,緊急手術を施行した.腹膜炎による膵周囲の癒着のため脾温存は断念し,脾合併膵体尾部切除術を施行した.膵液瘻と脾静脈出血を認め,再手術を必要としたが,その後の経過は良好で,入院43 日目に退院となった.保存的治療が奏功しないIIIb 型に対して,外科的治療を行う場合には,手術操作が煩雑になり膵液瘻などの合併症が発生しうることから再ドレナージを念頭に置いた術式の選択が肝要である.
症例は6 か月女児.発熱が1 週間持続し,尿路感染症と診断された.超音波検査で左腎盂内の巨大な結石,排尿時膀胱尿道造影では両側の膀胱尿管逆流(VUR)を認め,VUR を基礎疾患とし腎盂に巨大な感染結石を形成したと推測した.治療として腎盂切開による結石摘出と膀胱尿管新吻合術(Cohen 法)を二期的に施行する方法を選択した.本症例は感染結石の起因菌として典型的なProteus 属の検出,結石摘出術までのアルカリ尿の持続,結石成分分析でリン酸カルシウムとシュウ酸カルシウムの混合結石であった結果から,一次性感染結石の可能性が高いと考えられた.結石の除去と基礎疾患の治療を確実に行ったことで,今後の尿路感染症や結石の再発予防が期待できると思われる.
症例は日齢3 の女児.在胎27 週時に胎児超音波検査で先天性小腸閉鎖症が疑われた.在胎31週5 日に胎児機能不全を認め,緊急帝王切開で出生した.出生時体重は1,616 g,明らかな外表奇形を認めず,腹部X 線検査にてtriple bubble sign を認めた.高位空腸閉鎖と診断し,胃管にて減圧を行い,日齢3 に手術を行った.手術所見ではトライツ靭帯から3 cm の空腸に膜様閉鎖を認め,さらに3 cm 肛門側に2 箇所目の膜様閉鎖を認めた.これらの膜様閉鎖部を含めて小腸部分切除を行った.病理組織診断では2 箇所の膜様閉鎖を認め,口側の膜様閉鎖部にHeinrich III型の異所性膵を認めた.異所性膵を伴う小腸閉鎖の報告は検索した限り1 例のみで,膜様閉鎖のみの多発型については報告がなかった.本症例で経験した異所性膵を伴う2 箇所の高位空腸膜様閉鎖は極めて稀な病態であると考えられた.
症例1 は7 歳男児.急性虫垂炎の内科的治療中に,腹痛,発熱が持続するため造影CT を施行した.臍周囲で腸管の捻転が疑われるclosed loop を形成する所見を認め,機械的イレウスと診断し緊急手術を施行した.開腹するとCT でclosed loop が指摘された位置で,虫垂先端に大網が癒着してバンドを形成し,そこに小腸が陥入したと考えられた.症例2 は5 歳男児.間欠的な腹痛,嘔吐で近医を受診した.腹部単純X 線写真および腹部造影CT で腸管拡張とニボー像を認めていたため,機械的イレウスが疑われ当院へ救急搬送となり,緊急手術を施行した.虫垂の先端がバウヒン弁から70 cm 口側の回腸に付着し,その間隙に回腸が陥入し捻転を来たしていた.小腸の虫垂付着部には小腫瘤を認め,病理所見でメッケル憩室と診断した.虫垂に関連した内ヘルニアは比較的稀な病態であり,本症例について検討し,文献的考察を加え報告する.
症例は1 歳女児.急性大腸閉塞の診断で当科に紹介され,腹部膨満と代償性ショックを呈していた.腹部CT では中等量の腹水,直腸とS 状結腸の壁肥厚,下行結腸から回腸の拡張,及びS 状結腸下行結腸移行部の便塞栓を認めた.病歴から消化管アレルギーを疑ったため,開腹手術を回避するために全身麻酔下に大腸内視鏡を行ったが腸閉塞解除は不可能であり,最終的に開腹手術を施行した.S 状結腸下行結腸移行部の腸管壁を切開し便を摘出後,内視鏡を併用して口側腸管の減圧を行った.なお,術中に採取した結腸壁には好酸球浸潤を認め,消化管アレルギーが強く疑われた.経過は良好で術後18 日目に退院した.その3 か月後に再度同原因による腸閉塞を発症したが,保存的治療で容易に改善した.消化管アレルギーの多くは小児科で対応されるが,小児外科医が初期対応を行うこともあり,本症例のような病態に対しては開腹手術が必要になる場合があると考えられた.
胆道閉鎖症術後,結婚し挙児希望のある25 歳女性.代償性肝硬変の状態により,小腸内腔に突出する大きな静脈瘤を認めていた.胆管炎による入院を契機に肝移植に関する情報提供を開始し,5 か月後に63 歳の父をドナーとする生体部分肝移植を施行した.術後は門脈血流不良,小腸穿孔,腸閉塞,胆管空腸吻合縫合不全のため計3 回の再開腹手術を要し,術後94 日目に退院した.肝移植5 か月後に残存した小腸静脈瘤の塞栓術を施行した.肝移植2 年後に妊娠し,母子ともに大きな問題なく妊娠38 週1 日に経腟分娩で健児を得た.慢性肝障害・肝硬変を有している胆道閉鎖症術後の成人症例では,妊娠・出産に大きなリスクを伴う.肝移植後の妊娠・出産に関しては安全にできるという報告が増えているが,挙児希望を理由に肝移植を施行することは一般的ではない.次世代を生み育てるまでの“成育医療”という観点で示唆に富む症例と思われ,ここに報告する.
大腸静脈奇形は稀な疾患であり,小児期に発症する例はさらに稀である.今回,我々は腹痛・下血を主訴に発症した小児例を経験したので報告する.症例は10 歳11 か月,女児.生来健康であったが,転倒を契機に腹痛・下血を訴え,近医受診した.腹部CT にて腹腔内に巨大腫瘤を認め,精査加療目的に当科紹介された.腹部超音波検査,CT,MRI,注腸造影所見より右結腸静脈奇形と診断し,手術施行した.盲腸から上行結腸の腸管壁より発生した暗赤色を呈する多房性小囊胞性腫瘤を認め,上行結腸,回盲部と合併切除した.病理組織学的所見より静脈奇形と確定診断した.小児の下血の診療においては,本症も念頭に置くことが重要と思われる.