2022 年 58 巻 1 号 p. 85-90
大動脈胸骨固定術は先天性食道閉鎖症や気管食道瘻に合併した気管軟化症に対して,広く用いられている術式であるが,重症心身障害児(者)の気管気管支軟化症に対しても有効であった症例を報告する.患者は20歳の男性で,生後8か月時に喘息重積発作による低酸素脳症のため重症心身障害児(者)となった.18歳時に気管気管支軟化症によるdying spellを発症した.造影CT検査では気管気管支軟化症の最狭窄部が大動脈弓と椎体による圧迫部位と一致していた.気管カニューレでチューブステントを行ったが,右主気管支は大動脈圧迫により狭窄したままであった.その後も頻回にdying spellを繰り返したため,20歳時に大動脈胸骨固定術を施行した.術後2年現在,呼吸状態は安定し,再発なく良好に経過している.重症心身障害児(者)の気管軟化症に対しては,大動脈圧迫が原因の場合,大動脈胸骨固定術が有効な術式であることが示唆された.