2024 年 60 巻 7 号 p. 990-996
2歳3か月の女児.腹部膨満で前医を受診,触診で腹部全体に弾性軟の腫瘤が触知された.腹部造影CT検査で腹腔内を大きく占拠する脂肪成分に富んだ腫瘍性病変を認め,MRI検査では腫瘍は膵臓や右腎,右腸腰筋に広く接し,胃を頭側に腸管を左側に圧排して位置し,辺縁は平滑で周囲組織との境界は明瞭で明らかな浸潤所見はなかった.後腹膜もしくは胃結腸間膜や大網原発の脂肪腫または脂肪肉腫,脂肪芽腫が疑われ,開腹手術にて全摘した.腫瘍は胃結腸問膜から大網の右半分に広がるような大網脂肪性腫瘍であり,右胃大網動脈の分枝が栄養血管となっていた.病理所見では脂肪芽腫と診断された.脂肪芽腫のうち,腹腔及び後腹膜に発生するのは5%程度と言われているが,大網に発生する脂肪芽腫は極めて稀である.脂肪肉腫との術前の鑑別が難しく,原則として完全切除が必要で不完全切除例では再発が報告されており,術後経過観察も重要である.