日本緑化工学会誌
Online ISSN : 1884-3670
Print ISSN : 0916-7439
ISSN-L : 0916-7439
論文
丹沢山地における崩壊跡地の植生回復に関する研究
松崎 紀雅石垣 逸朗阿部 和時園原 和夏内山 佳美
著者情報
ジャーナル フリー

2010 年 36 巻 1 号 p. 21-26

詳細
抄録

神奈川県の丹沢山地では1923年 (大正12年) の関東大地震,1972年の豪雨災害において多数の崩壊地が発生し,崩壊発生から長い年月がたっているにもかかわらず植生回復が進んでいない崩壊跡地が多数みられる。本研究では,西丹沢山地内に,崩壊発生から2009年までの37年経過した崩壊跡地2箇所と62年以上経過した2箇所を調査区として,崩壊地内の植生状況と微地形調査を行い,その植生回復状況を明らかにすることを目的とした。4調査区とも標高620~700m に位置し,地質は石英閃緑岩である。崩壊地内では地表面の状況の違いにより木本の生育に明らかな差がみられたため,崩壊跡地の周辺部を未崩壊域,崩壊地内を安定域,不安定域,谷部に分類して植生の侵入,生育状況を調査した。調査の結果,1) 地表面に凸凹が多い複雑な地形をした崩壊地の方が木本類の生育が多い。2) 崩壊跡地の周囲が人工林の場合よりも広葉樹林の方が侵入する木本の種数及び本数ともに多い。3) 大径木の周辺には小径木が生育する傾向が見られる。4) 崩壊域と未崩壊域の周縁部の表層土は安定していて小径木が生育する傾向が見られる。5) 表層土が存在しなくても亀裂の生じた基岩面に木本の生育がみられる。6) マサ土の裸地面や亀裂のない基岩の斜面で木本の侵入は困難である。7) 谷部と不安定域では木本の侵入,定着は困難である。全ての調査区において山腹平均傾斜は40°を超えているが,1) ~5) のような条件が整えば,急傾斜な崩壊地においても徐々に木本の侵入が始まり,林相が回復するものと考えられた。

著者関連情報
© 日本緑化工学会
前の記事 次の記事
feedback
Top