抄録
生物多様性が危機に直面する中,都市部においても生物多様性を保全する試みが行われている。都市部に存在する断片化した植物個体群は,遺伝的多様性を欠き,短期的には近交弱勢等による適応度の低下,長期的には個体群の環境変化に対する適応力を減少させる可能性があり,遺伝情報に基づく多様性の評価が必要である。近年の分子遺伝学的解析手法の発達により,生物多様性評価を遺伝情報に基づき,比較的低コストで行えるようになった。本来は里山に生育するタチツボスミレの都市個体群の遺伝的特徴を解析した結果,全体的な傾向として,市街地の個体群は里山の個体群よりも遺伝的多様性や遺伝的交流が減少していたが,都市の生育地断片化が植物個体群におよぼす遺伝的影響は個体群ごとに異なっており複雑であった。生育地断片化による遺伝的影響は,種内の個体群間でも異なる可能性があるため,都市生態系の健全な保全のためには,今後遺伝的視点に基づく評価を積極的に行っていく必要がある。