抄録
京都府北部に位置する冷温帯性天然林において,全体を防鹿柵で囲んだ集水域と隣接する柵外集水域で,柵設置2 年後に土壌窒素動態と渓流水の窒素濃度を比較した。各集水域の谷線と尾根線に40 m2 のコドラートからなるトランセクトを設定し,計339 コドラート内の土壌について,含水率,有機物層厚,アンモニア態・硝酸態窒素現存量,純無機化・硝化速度,炭素:窒素比を測定した。下層植生の回復した防鹿柵集水域では,尾根線で有機物層が厚く,下層植生によってリターや土壌の斜面移動が抑制されることが示唆された。また,硝酸態窒素現存量は,地形によらず防鹿柵集水域で低く,対照集水域で高かったのに対し,純硝化速度は集水域間で有意な違いが無く,どちらも谷線で尾根線より高かった。渓流水の硝酸態窒素濃度は,防鹿柵設置から2 年経過した時点から防鹿柵集水域で年々低下傾向を示した。以上から下層植生による窒素吸収は,集水域の窒素保持に重要であるといえる。また,シカによる下層植生の過採食は,土壌窒素動態を変え,森林生態系外への硝酸態窒素の流出を増加させる可能性が考えられる。