日本緑化工学会誌
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39 巻, 3 号
3号
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特集
  • 北関東でのシカ採食圧排除によるミヤコザサの窒素保持・循環の回復
    岩月 良介, 堀口 智也, 戸田 浩人, 崔 東寿
    原稿種別: 論文
    2013 年 39 巻 3 号 p. 353-359
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/12/11
    ジャーナル フリー
    シカ採食圧でミヤコザサが矮小化した落葉広葉樹二次林において防鹿柵を設置し,ササ・バイオマス回復と窒素循環への影響を調査した。防鹿柵の内区と外区に,ササの被度50% 以上(被度大)と30% 以下(被度小)の調査区を設け,バイオマスおよびリターフォールを測定した。イオン交換樹脂を用いてA0 層直下(0cm)と土壌深さ10 cm と30 cm の土壌浸透水による無機態窒素移動量を測定した。被度大では, 防鹿柵設置2 年でササ・地上部が約4,000 kg ha-1,地下茎が約1,000 kg ha-1 増加し,葉の窒素が40 kg ha-1 となり葉リターの窒素も増大した。防鹿柵設置2 年目には外区の被度大でも地上部が約2,000 kg ha-1,地下茎が約1,000 kg ha-1 増加し,地下茎の連絡による防鹿柵外での効果が示唆された。被度小では,防鹿柵設置2 年ではササ・バイオマス,リターフォールともに著しい変化がみられなかった。また,地下茎より下層に浸透する無機態窒素の割合が被度小で被度大よりも高かった。被度小は被度大より地下茎バイオマスも著しく少ないことから,急速なミヤコザサの回復を期待するには地下茎が衰退する以前にシカ採食圧を排除する必要があるといえる。
  • シカによる下層植生の過採食が森林の土壌窒素動態に与える影響
    福島 慶太郎, 阪口 翔太, 井上 みずき, 藤木 大介, 徳地 直子, 西岡 裕平, 長谷川 敦史, 藤井 弘明, 山崎 理正, 高柳 敦
    原稿種別: 論文
    2013 年 39 巻 3 号 p. 360-367
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/12/11
    ジャーナル フリー
    京都府北部に位置する冷温帯性天然林において,全体を防鹿柵で囲んだ集水域と隣接する柵外集水域で,柵設置2 年後に土壌窒素動態と渓流水の窒素濃度を比較した。各集水域の谷線と尾根線に40 m2 のコドラートからなるトランセクトを設定し,計339 コドラート内の土壌について,含水率,有機物層厚,アンモニア態・硝酸態窒素現存量,純無機化・硝化速度,炭素:窒素比を測定した。下層植生の回復した防鹿柵集水域では,尾根線で有機物層が厚く,下層植生によってリターや土壌の斜面移動が抑制されることが示唆された。また,硝酸態窒素現存量は,地形によらず防鹿柵集水域で低く,対照集水域で高かったのに対し,純硝化速度は集水域間で有意な違いが無く,どちらも谷線で尾根線より高かった。渓流水の硝酸態窒素濃度は,防鹿柵設置から2 年経過した時点から防鹿柵集水域で年々低下傾向を示した。以上から下層植生による窒素吸収は,集水域の窒素保持に重要であるといえる。また,シカによる下層植生の過採食は,土壌窒素動態を変え,森林生態系外への硝酸態窒素の流出を増加させる可能性が考えられる。
  • 奥日光千手ヶ原におけるササ消失後の林床植生の分布
    吉川 正人, 今福 寛子, 星野 義延
    原稿種別: 論文
    2013 年 39 巻 3 号 p. 368-373
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/12/11
    ジャーナル フリー
    日光国立公園の千手ヶ原地域では,シカの高密度化による高い採食圧を受けて,1994 年頃までに林床のササが全面的に消失した。この地域において,ササ消失後に成立した林床植生の現状を把握するため,2011 年に林床植生図を作成し,主たる森林型であるハルニレ林,ミズナラ林,カラマツ人工林のそれぞれにおいて,成立した林床型とその分布パターンを調べた。また,各林床型で植生調査をおこない,種組成の特徴を明らかにした。この地域の森林林床では,1990 年代前半までは主にクマイザサが優占していたが,現在では不嗜好性植物であるシロヨメナ,マルバダケブキ,採食耐性のあるヒメスゲのいずれかが優占していた。また,一部では裸地化が進んだ低植被型の林床も形成されていた。林床の優占種となっていた3 種は,ササの衰退が起こる前の植生調査資料では森林群落には出現していなかったことから,ササ消失後に林縁などから侵入して急速に拡大したものと推測された。
  • 関西4 府県を対象としたニホンジカの影響による落葉広葉樹林の衰退状況の推定
    藤木 大介, 酒田 真澄美, 芝原 淳, 境 米造, 井上 厳夫
    原稿種別: 論文
    2013 年 39 巻 3 号 p. 374-380
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/12/11
    ジャーナル フリー
    関西4 府県(兵庫県,京都府,滋賀県,福井県)を対象に,ニホンジカ(以下,シカ)の影響による落葉広葉樹林の衰退程度を県域スケールで評価する手法8)の汎用性と有効性について検討した。その結果,落葉広葉樹林の衰退程度の指標 (shrub-layer decline rank; SDR) とシカの生息密度指標の間には地理的相関があること,SDR の悪化に伴い,他の多くの森林の衰退を指標する要素も悪化していくことが府県間で共通して示された。さらに,4 府県のSDR データを地理情報システム上に取り込んだうえで空間内挿処理を施し,leave-one-out 交差検定法で精度検証した結果,4 府県スケールにおいて有効な精度で落葉広葉樹林のSDR 別の地理的分布を推定することができた。推定結果に基づいて,4 府県におけるシカによる落葉広葉樹林の衰退状況を整理した結果,1)兵庫県本州部の中央部から丹後半島を除く丹後山地にかけての地域,2)京都・滋賀・福井県境部を中心とした丹波高地,3)鈴鹿山脈,以上の3 地域はシカの影響により低木層が半減以上した落葉広葉樹林が大面積存在しており,4 府県の中で最もシカによる植生の衰退が深刻な地域であることが示された。
  • 岐阜県山中峠湿原における野生哺乳類によるミズバショウ群落の撹乱
    安藤 正規, 押山 友美, 小澤 一輝
    原稿種別: 論文
    2013 年 39 巻 3 号 p. 381-388
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/12/11
    ジャーナル フリー
    岐阜県高山市に位置する山中峠のミズバショウ群落では,近年野生哺乳類による湿原の撹乱によりミズバショウの減少が生じている。本研究では,撹乱をもたらす加害獣種を特定し,撹乱発生状況を明らかにすることを目的とした。加害獣種の特定のために,2010 年7 月8 日~12 月31 日にかけて自動撮影装置による調査をおこなった。また,撹乱の種類や発生状況を明らかにするために,7 月7 日に湿原内の撹乱状況をベルトトランセクト法により調査した。自動撮影装置による調査の結果,ニホンジカがミズバショウの地上部を採食し,またニホンジカとイノシシが湿原を掘り返していることが明らかとなった。撹乱状況の調査の結果,優占種4 種のうち採食痕を確認できた植物はミズバショウのみであった。またミズバショウの分布する地点で採食や踏みつけ等の撹乱がよく観察される傾向がみられた。さらに現地では,掘り返された地点においてミズバショウ根茎の採食も確認された。これらの結果から,近年の山中峠湿原におけるミズバショウの減少はニホンジカおよびイノシシによるミズバショウの採食や掘り返しが原因であることが明らかとなった。
  • 京都府におけるニホンジカによる天然林および人工林被害の広域モニタリング
    芝原 淳, 境 米造, 井上 厳夫, 安藤 正規
    原稿種別: 論文
    2013 年 39 巻 3 号 p. 389-394
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/12/11
    ジャーナル フリー
    ニホンジカ(以下,シカ)による森林被害の都道府県域の広域モニタリング手法として,京都府において,落葉広葉樹林における下層植生衰退度(Shrub-layer decline rank ,以下,SDR)調査を実施した。併せて,人工林における被害分布を広域にモニタリングする手法の開発を目指し,京都府全域を対象にヒノキ林およびスギ林において剥皮被害(以下,剥皮)の調査を実施した。京都府内において,SDR,ヒノキ剥皮およびスギ剥皮をそれぞれ約130 カ所で調査した。得られた結果を市販のGIS ソフトに読み込み空間内挿補間を実施し,それぞれの被害の分布地図を作成した。空間内挿の精度を検討した結果,SDR,ヒノキ剥皮およびスギ剥皮の推定精度はいずれも良好であった。さらに,シカの採食圧の指標として,4 年分(2007 年度~2010 年度)のシカの目撃効率の平均値とSDR,ヒノキ剥皮およびスギ剥皮との相関解析を行った。その結果,SDR およびヒノキ剥皮はシカの目撃効率の平均値との有意な相関が確認された。本研究で実施した人工林における剥皮被害分布調査手法は,都道府県レベルの広域モニタリングに有効であると考えられた。
  • ニホンジカ高密度生息域のススキ草原における草原生植物種多様性の低下
    橋本 佳延, 栃本 大介, 黒田 有寿茂, 田村 和也, 福井 聡
    原稿種別: 短報
    2013 年 39 巻 3 号 p. 395-399
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/12/11
    ジャーナル フリー
    良好に管理されているススキ草原の種多様性がシカの採食によって受ける影響を明らかにするために,シカ高密度化が進む兵庫県神河町の砥峰高原ススキ草原にて防鹿柵を設置し,柵内外の出現種の出現頻度・平均被度を調査した。結果,ススキ以外の草本種種数は防鹿柵区の方が約4 種多かった(p<0.05)。ススキ以外の草本植物被度は防鹿柵区で4.0 ポイント高く(p<0.05),広葉草本被度は防鹿柵区の方が4.9 ポイント高かった(p<0.001)。防鹿柵区での平均被度が有意に高い種(種群A)は2 種,防鹿柵のみに出現した種(種群B)は8 種確認された。防鹿柵と無柵区との間に生じる広葉草本の被度の差違への寄与率は種群A が27%,種群B が11 %だった。このことから,シカの採食はススキ草原の種多様性に対して負の影響をもたらし,その影響は特定の種に対して顕著に及ぶ可能性があると考えられた。シカの高密度生息地域では,管理により良好に維持されているススキ草原であっても,シカの採食により植物の種多様性が低下する恐れがある事が示唆された。
  • 奥日光千手ヶ原地域における林床植物の地上部現存量の推定法
    古澤 仁美, 佐野 哲也
    原稿種別: 短報
    2013 年 39 巻 3 号 p. 400-405
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/12/11
    ジャーナル フリー
    奥日光千手ヶ原地域において,ニホンジカの食物資源量を評価するため,林床植物の地上部現存量を被度(C)と植物高(H)を乗じた値(C×H 値)から推定する方法を検討するとともに,既報の積算被度による推定法と比較した。2 つの調査地において,出現した植物種ごとに被度と最大自然高を測定した後に地上部を刈り取り,植物タイプ(木本,シダ,草本:シロヨメナ+キオン(キク科草本),キク科草本を除く広葉草本類,グラミノイド)にわけて乾燥重量を測定した。2 つの調査地のデータをまとめて解析したところ,植物タイプごとのC×H 積算値と地上部現存量のあいだに相関関係が認められ,決定係数は0.8309~0.9978 であった。キク科草本を除く広葉草本類において,C×H 積算値による回帰式の決定係数(0.8309)は既報の積算被度による回帰式の決定係数(0.5708)より高かった。このことから,キク科草本を除く広葉草本類においてC×H 積算値から推定する方法によって精度が向上すると示唆された。
  • 全国の治山事業におけるシカ被害対策の実態と侵入防止柵の変状原因
    大島 千和, 滝口 潤, 佐藤 尚弘, 山田 守, 大澤 学
    原稿種別: 技術報告
    2013 年 39 巻 3 号 p. 406-411
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/12/11
    ジャーナル フリー
    治山事業が対象とする山腹崩壊箇所や森林整備箇所でもシカ被害が問題となっている。そのため,シカ被害対策を講じることが多いが,その効果については明らかではない場合が多い。そこで,治山事業におけるシカ被害対策の現状を把握し課題を明らかにするために,各都道府県へアンケート調査を実施した。また,対策工の中で採用例が多い侵入防止柵の変状調査を行った。アンケート調査の結果,対策には侵入防止柵が多く使用されていることが分かった。また,治山事業対象地は急峻地や奥山であることが多く,維持管理を行うことが難しい等の課題が明らかとなった。このことから,治山事業に対応した侵入防止柵の開発や維持管理面の改善が必要であることが示唆された。また,侵入防止柵の変状調査を行った結果,治山事業特有の問題である落石や土砂の堆積が原因で変状が発生していることが分かった。そして,今回の調査で比較的軽微な変状の場合は補修部材・道具類を用いずに容易に補修を行うことができることを確認した。
論文
  • 魚井 夏子, 渡邊 眞紀子, 村田 智吉
    原稿種別: 論文
    2013 年 39 巻 3 号 p. 412-421
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/12/11
    ジャーナル フリー
    本研究では,東京都千代田区にある皇居外苑北の丸地区を対象として公園化以前の土地利用,造成手法,現在の整備形態による人為的負荷と土壌の物理特性の対応関係を明らかにした。長谷川式土壌貫入計を用いて134 地点で鉛直方向の土壌硬度分布の測定を行い,GIS ソフトによる空間解析を行った。全地点のうち到達深度50 cm 未満の不貫入地が34 地点(25.3%),緻密層が出現する地点は90 地点(67.1%)であった。不貫入層の有無は,建物の圧密や踏圧などの人為的負荷の強度によって異なることが示唆された。緻密層の出現深度は,樹林・植栽地であっても0―25 cm に分類される割合が最も高かった。積算層厚は,25―50 cm が最も高かった。特に,切土造成,芝地では積算層厚が50 cm 以上になった。出現回数は1―2 回に分類される割合が最も高かった。北の丸地区の土壌は,0―25 cm から緻密層を形成し,層内で1―2 回出現する。そして,その緻密層の積算層厚は25―50 cm となり,層全体の25%から50% を占めることが分かった。以上のことから,現在の整備形態による硬化に加えて,過去の土地利用,造成手法が土層全体を硬化させ,不貫入層や緻密層を形成していると考えられた。また,都市の土壌では,現在の地形や植生景観からは推測困難な特徴層位が形成されていることが示された。土壌硬度の鉛直分布調査は複雑な土地利用履歴と利用形態をもつ都市部の土壌生成を理解するための有効な手法であるといえる。
  • 嶌田 知帆, 長島 啓子, 高田 研一, 田中 和博
    原稿種別: 論文
    2013 年 39 巻 3 号 p. 422-428
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/12/11
    ジャーナル フリー
    本研究では,先駆種,遷移中・後期種の混植を用いた通称自然配植技術による植栽が行われた法面(奈良県岩井川ダム道路の採石場跡法面)において,先駆種が優占する初期緑化目標群落が形成されているか,及び階層構造が発達しつつあるかを確認するためのモニタリング調査を行った。現地調査はH18~H19 年にかけてヤマハゼ,エドヒガン,ハゼノキ,ヤマザクラ,ケヤキ,イロハモミジ,モミ,ヤブツバキ,モチノキ等の植栽が実施された防鹿柵内の全ての木本植物43 種を対象にH23 年に行った。H23 年調査時の生残率は66.1%であった。調査は過去にH21 年にも行われ,樹高階別本数分布をH21 年のモニタリングデータと比較すると先駆種と中期種は全体的に樹高階の高い方へ移行していた。一方,後期種は両年とも低い樹高階に分布していた。また,樹冠面積割合では先駆種が59.0% と最も大きく,中期種は36.1%,後期種は4.9% と,遷移段階の間に差がみられ,樹冠投影図では主に先駆種が林冠を占めていた。以上のことから,対象地が初期緑化目標群落を形成し,複層林化が進んでいることが示された。
技術報告
  • 村田 智吉, 渡邊 未来, 高松 武次郎
    原稿種別: 技術報告
    2013 年 39 巻 3 号 p. 429-433
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/12/11
    ジャーナル フリー
    今回不攪乱型ライシメーター(モノリスライシメーター)実験に用いるための直径300 mm ,長さ500 mm の土壌コアを簡易に採取するための可搬式掘削機および実験環境制御用の水冷式恒温槽の開発を行った。掘削機は土壌を充填するためのステンレス製土壌カラムをあらかじめ掘削管に内挿した二重構造の油圧回転式で,刃先には超硬合金特殊ビットを装着させた。土壌採取はつくば市内の芝造成地とマツ林で4 反復ずつ行い,採取後は恒温槽に装着し,温室内で年降水量1,300 mm の条件で定期的に散水しながら土壌水分ポテンシャルと水の浸透速度のモニタリングを行った。浸透速度は土壌表面に臭化物イオン(Br -)を添加し,浸透水中の濃度を計測することにより算出した。本マツ林土壌において計測を行った結果,降雨が深さ50 cm に到達するのに要する期間は3~5 カ月程度と推定された。
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