抄録
日光国立公園の千手ヶ原地域では,シカの高密度化による高い採食圧を受けて,1994 年頃までに林床のササが全面的に消失した。この地域において,ササ消失後に成立した林床植生の現状を把握するため,2011 年に林床植生図を作成し,主たる森林型であるハルニレ林,ミズナラ林,カラマツ人工林のそれぞれにおいて,成立した林床型とその分布パターンを調べた。また,各林床型で植生調査をおこない,種組成の特徴を明らかにした。この地域の森林林床では,1990 年代前半までは主にクマイザサが優占していたが,現在では不嗜好性植物であるシロヨメナ,マルバダケブキ,採食耐性のあるヒメスゲのいずれかが優占していた。また,一部では裸地化が進んだ低植被型の林床も形成されていた。林床の優占種となっていた3 種は,ササの衰退が起こる前の植生調査資料では森林群落には出現していなかったことから,ササ消失後に林縁などから侵入して急速に拡大したものと推測された。