ニホンジカの生息数の増加や生息域の拡大に伴い,農林業被害,生態系への影響,交通事故などの課題だけでなく,緑化工を実施した緑化斜面においても,植生不良,浸食等の課題が顕在化している。しかし,緑化斜面におけるシカ被害の実態についての調査はほとんど行われていない。そこで,シカ被害の現状や課題を明確にすることを目的として,国道(山梨県),高速道路(大分~宮崎)およびダム(福岡県)の法面を対象として,植被率,優占種,変状の状態などに関する概略的な実態調査を実施した。調査の結果,植被率が低い法面や裸地化・浸食が進行している法面の割合が多く,また,そのような法面ではシカの不嗜好性植物が優占するなど,シカの影響を強く受けていると推測される傾向が認められた。結果として,緑化工の目的を達成していないと判断できる法面が多数見られた。今後,法面におけるシカ被害の詳細な実態調査や緑化工に関わる指針類において,シカ被害に関する情報の追加,ならびに不嗜好性植物に関する調査研究が必要と考えられる。