i-Treeは都市森林の構造および生態系サービス解析のためのコンピュータプログラム群であり,2006年の最初のリリース以来,欧米諸国を中心に世界中で利用されている。本稿では,i-Treeの利用が先行する欧米諸国での実例に基づいて,緑の定量的および客観的評価の事例を紹介する。また,これらの評価がどのように都市森林の維持・管理,計画立案,政策決定,費用対効果分析,市民の啓蒙・参加,環境教育へと波及したかについても論じる。
ニホンジカの生息数の増加や生息域の拡大に伴い,農林業被害,生態系への影響,交通事故などの課題だけでなく,緑化工を実施した緑化斜面においても,植生不良,浸食等の課題が顕在化している。しかし,緑化斜面におけるシカ被害の実態についての調査はほとんど行われていない。そこで,シカ被害の現状や課題を明確にすることを目的として,国道(山梨県),高速道路(大分~宮崎)およびダム(福岡県)の法面を対象として,植被率,優占種,変状の状態などに関する概略的な実態調査を実施した。調査の結果,植被率が低い法面や裸地化・浸食が進行している法面の割合が多く,また,そのような法面ではシカの不嗜好性植物が優占するなど,シカの影響を強く受けていると推測される傾向が認められた。結果として,緑化工の目的を達成していないと判断できる法面が多数見られた。今後,法面におけるシカ被害の詳細な実態調査や緑化工に関わる指針類において,シカ被害に関する情報の追加,ならびに不嗜好性植物に関する調査研究が必要と考えられる。
神奈川県では,主に丹沢山地にシカが生息している。丹沢山地におけるシカ問題は,戦後の乱獲による絶滅の危機,保護施策による個体数回復と造林地拡大による林業被害の発生,自然植生への影響の深刻化の3回の局面に整理されている。丹沢山地におけるシカによる森林被害は,低中標高域のスギ・ヒノキ人工林における造林木被害と高標高域の自然林での自然植生劣化があり,現在,シカ管理計画等による取り組みが進められている。自然植生劣化への対策が継続的に進められてきた場所では植生回復が見られるものの,丹沢山地全体での植生回復には至っていないため,取り組みの継続が必要である。また,水源林整備事業等が行われている人工林においても,森林整備後の林床植生へのシカの影響がみられており,近年シカが増加傾向にある箱根山地等を含めて,森林整備とシカ管理を連携した取り組みが必要となっている。
外来牧草は,安価で効果的な緑化資材である一方,シカによる食害やロードキルの誘発,そして在来植物との競合等の生態系被害を引き起こす可能性など,様々な問題を抱えてもいる。外来牧草に起因する諸問題,特に生態系被害の発生リスクを低減するためには,牧草に替えて地域性系統の緑化植物を用いることが望ましいが,コストや供給体制等の理由により,牧草を使わざるを得ないケースも多々ある。そのような場合は,様々な牧草種を対象に導入地からの逸出能力を定量的に評価し,より逸出しにくい種を選択的に用いることが有効と考えられる。本稿では,外来牧草の逸出能力の判断材料のひとつとして,複数の牧草種の風による種子散布距離を推定した研究を紹介した上で,種子散布から定着までの一連の逸出プロセスを考慮した総合的な逸出能力評価手法について考察する。
ニホンジカ(Cervus nippon)による自然植生への食害が全国的な問題となっている。そこで,既往文献にみられるシカ害やシカを取り巻く社会情勢,歴史についての情報を再整理した結果,シカが増加した理由に対する社会理解の中に,研究者も含め非科学的な思い込みが多く含まれることが明らかとなった。また,外来牧草による草地造成はシカの餌場となり得るもので,これに対抗するシカ害を引き起こしにくい緑化工法として,ススキ(Miscanthus sinensis)やチカラシバ(Pennisetum alopecuroides)などシカ不嗜好性の性質を持つタイプの地域性種苗の活用が有効であると考えられた。
礫河原の再生には,植物生態学,動物生態学,河川生態学,地形学,水文学,土木工学,人文社会学などのさまざまな学術領域が関連している。本報告では,礫河原再生に関してとりあつかう対象の測定間隔や解析範囲のほか,対象とする現象が影響する空間的な広がりやその発生頻度や時系列変化など,時間的・空間的スケールの整理を行った。とくに,礫河原を生態系ネットワークのインターフェースと位置づけ,礫河原が介在する諸現象の関連を検討した。既往の知見をスケールの枠組みで取りまとめることが,礫河原再生への統合的な枠組みや,段階的な目標設定を行える枠組み構築を進める一助となると考えられた。
礫床河川における微生息場の特徴を捉える上では,リーチスケールの土砂動態と地形に注目するのが有効である。河川中流域を対象とする場合,リーチスケールの地形を代表するものが交互砂州であり,この形状特性が,上流からの供給土砂量や河道断面の川幅水深比によってどのように異なるかを理解することが重要となる。そして,こうした交互砂州の形状特性によって,交互砂州上の分級特性も異なる。そのため,流域特性によって,流下土砂の量と粒度組成がどのようなものとなり,また,それによってどのような交互砂州が形成され,さらにその上にどのような物理構造の微生息場が形成されるのかという階層的な解析が可能となる。
河原におけるワンドの配置は洪水の過去の痕跡ともいえる。本報告では,多摩川の河原における植物分布に関する知見を洪水との関係で整理し,ワンドの配置が植物の分布に与える影響を検討した。礫河原において,ワンドは洪水時の主流線上に多く存在し,そのライン上には自然裸地のほか一・二年生草本群落,多年生草本群落,低木群落などの植生がみられた。河床の横断構造を示す既往の知見から,この洪水時の主流線跡は礫河原において帯状に見られ,過去に発生した増水により起伏のある多様な礫河原環境を提供している可能性があると考えられた。
礫河原固有植物の生育地としての観点から,多摩川の礫河原の空間的な分布,歴史的な分布,季節的な分布を整理した。礫河原と砂礫堆は別の概念であり,礫が優占する裸地的な環境は低水敷と中水敷にみられた。礫河原固有植物は砂礫堆の中水敷の植被率の低い環境に多く分布していた。近年は,中水敷の低植被立地が減少したため,2017~2018年の現地踏査では,低水敷の低植被立地の調査が主となった。カワラハハコは発見できなかった。カワラニガナはすべての調査地で確認された。保全再生活動特性を整理したところ,市民,行政,研究者の協動で行われている活動が長期間続けられる傾向があった。
哺乳類のハビタットネットワークの形成を行う場合,各種や生態系の生態学的な現状を把握する必要がある。日本では,キツネVulpes vulpesやニホンイタチMustela itatsiは環境に合わせて餌食物を変化させるジェネラリストであるため,都市化の進行した環境や,開発の進んだモザイク環境でも生息可能となっていると考えられる。都市の河川においては,河川敷が生息地やコリドーとしての機能を担っているが,一方で,水害防除のための河川敷の改変や構造物設置はやむをえない面がある。災害防除と生態系保全を両立する河川敷のあり方について検討するため,多摩川中流域において,消波根固ブロックの野生食肉目による利用を調査した。その結果,在来種ではタヌキNyctereutes procyonoidesとニホンイタチによる利用が確認された。
今回のアンケート用紙を用いた調査の目的は,現時点で,河川敷に礫河原に代わって成立している樹林地や草原について,河川利用者や流域住民はどのような受け止め方をしているのかを明らかにしようとするものである。約15~20年前に,今回の調査地区とほぼ同地区で実施した2つの調査結果の中で,特に,河川や河川敷の風景や河川の利用等の部分に注目して比較検討するとともに,今後の都市河川の望ましい河川敷の自然について,合意形成の可能性を探るというものである。調査の結果,前2回の調査と同様に,多摩川の風景については,左岸と右岸で意識の差がみられ,自然環境全般に関する知見や情報が,河川の流域住民に十分に情報提供・共有され,生かされているとは言い切れない現況と思われる。
平成21~24年度の4年間に実施されていた,全国の国直轄道路事業における植物移植および移植後のモニタリング結果を分析したところ,多年草の移植が最も多かった。移植後における多年草の種ごとの活着率を比較すると,ラン科,特にキンラン属については,移植の実績が多いにもかかわらず,活着率が低く,混合栄養植物の移植の困難さが浮き彫りになった。そのため,筆者らは,キンラン属移植の確実性向上のため,自生地播種試験により移植適地を把握したうえで,移植する手法を検討している。今後,国内外の知見や筆者らの研究成果をとりまとめ,キンラン属の保全ガイドとして公表する予定である。
ラン科植物は菌根共生への依存度が高く,さらに共生関係において宿主特異性が存在するため,パートナーとなりうる菌根菌が存在する環境でないと生育することができない。このため,やむを得ずラン科植物の移植を行う際には菌根菌が定着している環境に移植する必要がある。筆者らは鹿児島県に自生するオオバノトンボソウについて,シードパケット法を適用した種子発芽個体の解析に基づく,移植適地の判定に取り組んでおり,本稿ではオオバノトンボソウの種子発芽生態とともにその経過について報告する。
ラン科着生種における野外播種法は,地生種に比べ実践例が限られている。本研究では,クモランをモデルとし,野外播種法と,栽培条件下における共生菌を活用した播種法を検討した。野外播種試験では,ナイロンメッシュの種子袋を親株近傍に固定し自生地のコケで被覆することで,多量の実生が得られた。栽培条件下での播種試験では,人工増殖した共生菌を接種することで,多くの実生を得ることができた。また,栽培条件下でカヤランが付着する枝にクモランを播種しても発芽に成功した。本研究で得られた知見は着生種の保全に大きく貢献することが期待される。
野外播種試験を,ラン科植物以外に活用した例として,ツツジ科イチヤクソウ亜科が挙げられる。イチヤクソウ亜科は,ラン科植物と類似した生態を持つ菌従属栄養性の高い植物である。筆者らは,オオウメガサソウ(環境省準絶滅危惧)の国内での分布南限地である茨城県で,本種の保全を目的に,野外播種試験を試みている。播種からわずか6か月で発芽が確認され,全体の発芽率は15.5%となった。幼若個体のDNA分析により,発芽に関わる共生菌の種類も明らかになりつつある。本報告では,これまでの取り組みと今後の展望について紹介する。
1969年に開通した東名高速道路(東京インターチェンジ~三ヶ日ジャンクション間)と,2012年に開通した新東名高速道路(御殿場ジャンクション~浜松いなさジャンクション間)の道路区域内について,クズ(Pueraria lobata (Willd.) Ohwi)の発生面積を2013年に調査した。その結果,全調査区間のクズの総発生面積は268.7haであり,土工部のクズ発生面積は,いずれの路線においても切土よりも盛土で大きな値を示し,土工面積あたりのクズの発生面積率も東名高速道路が新東名高速道路よりも高かった。
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