日本緑化工学会誌
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技術報告
カワラナデシコの花の形態的特徴と古絵における描かれ方
大澤 啓志中村 葵
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2019 年 44 巻 4 号 p. 613-618

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抄録

人との親和性の高い在来野草類カワラナデシコについて,深裂した花弁形態の地域的差異を検討した。宮城県岩沼地区と静岡県沼津地区の海岸部の生育集団より花弁を各300片採取し,押し花にしたものをスキャナーで画像化し,全長・全幅・深裂片数・最深裂長をPC画面上で計測した。両地区の比較により全長と全幅で地域差が生じており,沼津産の方が一回り大きいことが示された。しかし,深裂片数には地区による差は認められず,平均で24片前後と近い値を示していた。次に,鑑賞者のまなざしが向けられた花の特徴を検討するため,我が国の代表的な近世の園芸書・本草書及び近代における初期の植物図鑑に描かれたカワラナデシコの図を渉猟し,花弁形態の描かれ方を比較した。近世までは深裂片数は少なく描かれていたのに対し,近代のものは概ね本調査2地区の計数値に近いものであった。特に牧野(1940)において裂片の状態が細部に至るまで克明に描かれていたが,深裂片が伸びやかに広がる本種の花の様子は,水野(1829)や飯沼(1856~1865)の方がより見る側に伝わりやすく描かれていた。

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© 2019 日本緑化工学会
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