抄録
今日の経済分析において「合理的予想形成仮説」の果たした役割は極めて大きなものがあり,それは「自然失業率仮説」と組み合わされて,マクロ総需要管理政策の有効性に関して重要な問題を提起した.合理的予想形成仮説とは,「人々の主観的確率分布がモデルを所与とした時の客観的確率分布と一致し,その数学的期待値を予想値とする.」というものであるが,この仮説を用いた議論においては,多くの場合,経済構造に関する知識は単純に既知のものとして取り扱われている.しかし,経済主体がそのような情報を入手するまでの「学習過程」の問題を本来は明示的に考慮する必要がある.そこで,本稿では「ルーカス型総供給関数」に関する議論をもとにして,これにベイズ流の手法を応用することによって,この問題に対する理論的分析が行なわれる.