ばね指は手外科では最多の疾患である.しかし,その原因については未知な部分が多く,ばね現象の発生メカニズムについての報告も乏しい.母指でのばね現象は,屈曲伸展の両方で生じることが最多である.示指から中指では,伸展時のみに生じることが最多であり,特にPIP 関節伸展時に生じることが多い.これらは解剖学的特徴などが起因する.治療法の腱鞘注射は,いずれのgrade にも効果的であるが,再発率は約60%と高い.また,多数回は避けるべきである.手術の成績は概ね良好である.A1 pulley の切開のみでほとんどの症例は問題ない.A1 pulley からさらに切開を加えることは,A1 pulley 切開でもわずかな腱の浮き上がり現象を生じ,軽度の握力低下を招くため,不必要な切開は避けるべきである.術前にPIP 関節屈曲拘縮がある例は,術後成績が悪い傾向がある.屈曲拘縮例では浅枝屈筋腱切除が有効とされているが,むやみな切除は筋力低下を発生させるので,術前に拘縮除去訓練を行ってから手術を行うのが良いと考える.