スポーツ社会学研究
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原著論文
人類史と「体力」:
「摂取=消費2200Kcal 法則」
内海 和雄
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2009 年 17 巻 1 号 p. 31-44

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抄録

 環境破壊が人類の生存を外的に危うくさせている。そればかりでなく、いま、人体の内的な環境、つまり体力問題から、人類の危機が警告されている。
 体力問題はあちらこちらで政策の対象となるが、体力の概念自体が不明確である。身体論はここしばらくブームであるが、体力の社会科学的な検討は殆どなされていない。それでも、体力とは「多種多様な人間活動の基礎となる身体的能力」と規定されている。このことから、体力とは個人でも年齢や発達段階あるいは性差、体格差などでも異なる。勿論、職業によっても。また体力には2つの側面がある。抵抗力を示す「防衛体力」と、行動力を示す「行動体力」である。後者は前者を内包しているが、現在、行動体力の低下のみならず子どもたちの防衛体力さえ脆弱化していると、指摘されている。
 成人の行動体力の低下はメタボリックシンドロームや糖尿病をはじめとする生活習慣病の増加などで示される。これらはひとえに摂取するカロリーが必要以上に増え、一方消費するカロリーが必要以下に減退すること(「過剰摂取:過少消費」)によって引き起こされたものである。人類の歴史は例えば「摂取=消費2200Kcal」を生物的法則として形成した。そしてそのカロリーの「過少摂取:過剰消費」の歴史、つまり恒常的に欠乏状態を長い歴史の中で経験してきた。近代国家の国民養成の一環として、国民全体の体力養成が国家的政策課題となったが、それでも未だ基本的には「過少摂取:過剰消費」の状態であった。しかし、高度経済成長を遂げた先進諸国では「過剰摂取:過少消費」状態となり、これがカロリーバランスに人類史上の根本的な構造変化をもたらし、危機の原因となっている。勿論それらは社会構造に規定されている。

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© 2009 日本スポーツ社会学会
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