スポーツ社会学研究
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研究ノート
エンデュランススポーツの体験に関する一考察
―広島県西部のトライアスリートの事例から―
浜田 雄介
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2013 年 21 巻 1 号 p. 111-119

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抄録

 近年、マラソンやトライアスロンなど長時間、長距離にわたる苦痛によって特徴づけられるエンデュランススポーツ(endurance sports)は多くの人々に親しまれるようになっている。概して、スポーツ社会学の分野においてエンデュランススポーツは日々の練習の積み重ねや苦しみに耐え抜くことによる達成感、自己肯定感などをもとに、複雑化、不安定化した社会状況下で人々が自らの生き方を再統合する個我の実践としてみなされてきている。またそのなかで、いくつかの定性的研究はエンデュランススポーツを通じた他者との共同性が上記のような実践の支えになることを論じている。
 上記のような先行する議論を踏まえて、本稿では広島県西部のトライアスリートの互いの実践を支え合う重要な他者である「仲間」関係の事例を対象とした参与観察と聞き取り調査から、他者との共同性に根差したエンデュランススポーツの体験の有り様を辿った。そしてそれらの体験が対象者の生き方の再統合のプロセスのなかでどのように位置づけられるのかを考察した。
 調査結果から、「仲間」の頑張りに刺激を受けたり、応援されることで苦しくとも脚が前に出たりといった、トライアスロンという消耗と苦痛に耐え抜く究極的な個人競技において他者に触発される間身体的体験が描き出された。またこのような体験にもとづいた主体的な自分の実感は、対象者が自らの生き方を再統合していくための前意識的な契機としてみなすことができた。最後に、本稿の事例を今日の社会に拡がったとされる自己の再帰性に新たな論理を付与しうるものと結論し、その理論的検討を今後の課題として挙げた。

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© 2013 日本スポーツ社会学会
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