スポーツ社会学研究
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原著論文
体育科教育の過去・現在・未来
鈴木 秀人
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2013 年 21 巻 2 号 p. 51-62

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抄録

 一般的には、現在行われている体育授業の直接的な起源は、19世紀後半に成立した「体操」の授業と考えられている。しかしながらここでは、英国のパブリック・スクールで課外活動として行われていたスポーツを、現在の体育授業の1つのルーツと措定する。なぜなら、現在の体育カリキュラムにおける内容の大半は「体操」ではなく「スポーツ」であり、かつ英国パブリック・スクールにおいて、それらのスポーツは単なる身体の規律訓練を超えた教育的な価値を見出されたからである。
 本論文の目的は、英国パブリック・スクールに焦点を当てながら、体育科教育の過去を把握し、その過去に規定されていると思われる体育科教育の現在を描き出し、さらには、その超克を志向するという方向で体育科教育の未来を展望することである。
 スポーツ活動が教育として承認されていく過程は、3つの段階にわけることができる。まず最初に、教師たちがスポーツを抑圧したり禁止したりした18世紀後半から19 世紀初頭の時期があった。次に、教師たちが校内の規律を維持するために、生徒たちの協力を得ることをねらってスポーツを公的に承認した19 世紀初めから半ば頃までの時期があった。そして第3番めに、教師たちが生徒の人格形成に役立つというスポーツの教育的な価値ゆえに、スポーツを積極的に奨励するに至った19 世紀半ば以降の時期があったのである。
 最も重要な段階は第2番めの段階である。この時期のスポーツ活動の特徴は、教師たちにとっては社会統制の1つの手段であったスポーツも、生徒たちにとっては純粋に「遊び(プレイ)」であったに違いないということにある。我々は、教育としてのスポーツの出発点が、生徒たちの自発性によって導かれたというこの事実に注意を払うべきである。
 このような体育科教育の歴史を振り返ると、これまでの体育科教育は運動を行う側にとっての根本的な意味、そこにある面白さを十分に考えてはこなかったことに気がつく。そういった視点からすると、運動のプレイとしての要素を重視する「楽しい体育」という体育授業論の可能性は、体育科教育の未来にとって1つの方向性を示しうる。

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© 2013 日本スポーツ社会学会
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