抄録
本稿は、一つの柔道場を通じてフランス社会を照射する試みである。私が調査を行った場所はパリ郊外の柔道場である。ここは、移民系住民が中心の貧困地区である。ここでの調査の過程には、反省性の実践が伴われた。この「反省」とはブルデューによって提起され、ヴァカンらによって継承された社会学の方法であり、対象化する主体である研究者自身を対象化することによって、科学的方法を洗練させ、対象の記述の質を高めることを可能にする。本稿では、このような反省性を実践することによって、調査者である私自身の強襲被害を対象化し、フィールドであるF 地区における暴力と社会的境界の関係を分析した。フランスの他の柔道場と同様に、この地区においても柔道家のほとんどは子どもである。そこでは、柔道場は孤島のような場所になっており、閉鎖的な共同体に近いその地区で尊重される価値とは別の価値、つまりフランス社会一般で通用するそれを教えこむ場であった。この地区は「ゲットー」と称されることも多いが、ここにおける柔道実践とは、結果的にそのような地区から子どもが将来的に抜け出せるようになることを意味している。私はこのような結論を、自ら被った強襲事件を契機に導出することができた。