本研究では、高度経済成長期(1955年~1973年)における労働者のスポーツ参加格差について分析した。当時の労働者にとって、職場スポーツ施設はスポーツ参加のために重要な役割を果たしていた。しかし労働省による調査の結果から、企業の規模や職種によって職場スポーツ施設の整備に偏りがあったことが明らかになった。また同時に総理府の調査から、中小企業労働者、自営業者、家族従業者は十分にスポーツに参加していなかったことも明らかになった。
こうした状況について、今後「社会福祉モデル」と「余暇選択モデル」という2つの立場からの説明が可能だろう。前者はこうしたスポーツ参加と職場施設整備の偏りを問題視し、なぜこのような社会状況となったのかを追及していく立場である。この立場に立てば、企業社会論のような諸研究を参照しながら、我が国の社会福祉の特殊な構造が生まれたのはなぜかを論じる必要がある。
そして後者の立場は、このような偏りに問題性を見出さず、なぜ特定の労働者たちは余暇時間にスポーツを選択しなかったのかを説明する立場である。この立場からの分析は、当時の労働者の労働時間や労働強度、そして余暇選択について分析していく必要があるだろう。