スポーツ社会学研究
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原著論文
身体をめぐる大衆的想像力の現在
―「パーツ」への注目、スポーツとビジネスの節合―
牧野 智和
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2017 年 25 巻 2 号 p. 21-37

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抄録

 近年の「身体」をめぐるベストセラーに注目すると、以前からみられるダイエット関連の書籍に加え、開脚、体幹、ふくらはぎといった特定の身体部位に注目し、それらへの働きかけによって人生の諸問題が一点突破的に解決するとする書籍をいくつかみることができる。このような身体をめぐる想像力はいかにして生まれたのだろうか。また、これらのうち体幹に関する書籍は、サッカー選手の長友佑都がトレーニングと自己啓発を地続きのものとして語るものだったが、このような身体をめぐる想像力は彼もしくは制作者の独創性によるものと単純に捉えるべきだろうか。本稿ではこのような身体をめぐる想像力に関する疑問を追究していく。
 まず特定の身体部位への注目については、女性向けライフスタイル誌『an・an』を分析対象として、その身体観の変遷を追跡した。具体的には、身体に関する「モノ」の消費、美の「心理化」が目指された1980・1990 年代を経て、2000 年代中頃から身体的「不調」の解消、体内の浄化が同誌の主たる関心になり、それが2010 年代に特定の身体部位の調整を通して心身の悩みを解消しようとする特集が陸続と展開することになる。これらから、近年のベストセラーは、大衆的な身体をめぐる想像力の系譜上に位置づけうることになる。
 次に、スポーツ関係者による自著を素材に検討を行った結果、やはりこれも長友らの独創性というよりは、戦後以来の系譜をたどることのできる、スポーツへの考え方とビジネス一般についての考え方を節合する言説の展開のうちにその想像力を位置づけうると考えられた。身体をめぐるこうした想像力の志向はともに、自らの身体を自らケアし、調整していくことを促すとする、現代的な自己統治の議論に収めることができる。だがおそらく重要なのは、包括的な統治論よりも描写をダウンサイジングさせたところでの、統治技法の具体的な展開や分散をより精緻に分析していくことだろう。

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© 2017 日本スポーツ社会学会
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