スポーツ社会学研究
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原著論文
アフリカ発の「プロ野球選手」から見るSDP 活動の現状とその課題
―日本のアクターによるアフリカにおける野球普及活動を事例として―
石原 豊一
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2019 年 27 巻 1 号 p. 75-89

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抄録

 新たな開発援助として「開発と平和のためのスポーツ(Sport for Development and Peace, SDP)」が注目され、先進国アクターによる途上国へのスポーツ普及策がなされるようになってきている。これについて、本稿では、日本のアクターによるアフリカにおける野球普及活動と、その結果生じたアスリートの国際移動の事例に着目し、スポーツという身体的文化活動が、途上国が抱える諸問題を解決することができるかという点について考察する。
 本稿において取り上げるのは、日本のNGO による野球普及活動の結果生まれた、プロ予備門と言うべき独立プロ野球リーグと契約したアフリカ人プロ野球選手の事例である。最初のジンバブエ人選手の事例は、国内情勢の悪化から現地での普及活動が困難になったための苦肉の策として行われたものであったが、その結果、「開発援助発のプロ野球選手」が、ひとつのモデルケースとなり、開発援助よりもむしろ「プロ野球選手」送出が目的化したような事例も見られるようになってきている。現実には、独立プロ野球リーグでの報酬は非常に低く、ここへの選手送出が、スポーツ普及を通じた途上国社会の経済的自立の援助と捉えることは難しい。また、アフリカにおける野球普及活動が啓蒙活動などの一助となるというアクター側の自己の評価についても疑問が残る。
 アフリカにおける野球普及は、あくまで娯楽の提供という援助の一手段であるに過ぎず、その限界を受け入れた上で、チームプレーを通しての教育的効果などの有効性を探っていくことが、今後のSDP の一環としての野球普及活動の方向性ではないだろうか。

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