スポーツ社会学研究
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震災復興途上におけるスポーツ・メガイベント招致
―地方小都市釜石の挑戦―
向山 昌利
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2019 年 27 巻 1 号 p. 41-58

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抄録
 2011年3月11日以降、日本で開催されるスポーツ・メガイベントは、東日本大震災と結び付けて語られるようになった。スポーツ・メガイベントと震災復興の関係性に関する研究は、主に2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会を事例として積み重ねられているが、そこでは被災地の具体的な姿が描き出されることはなかった。
 本稿ではスポーツ・メガイベントと自然震災からの復興を直接結びつけて検討することのできる機会である岩手県釜石市でのラグビーワールドカップ(以下、RWC)開催を事例とし、2019年日本大会における開催都市立候補構想の誕生から、開催権獲得後までのプロセスを跡付けながら、被災都市がどのような論理でスポーツ・メガイベントを引き受けるのかを具体的に描く。なお、本稿では復興事業の推進ならびにメガイベント開催がきわめて政治的、行政的であることに鑑みて、行政機能としての釜石市役所の役割に注目する。
 本稿を通じて、釜石市が地域資源を駆使しながらRWCの開催権獲得を目指した点、また釜石市がRWCを活用することで被災からの復旧だけでなく被災前からの地域課題の克服を企図していたことを明らかにした。くわえて、被災後という特殊な状況の中でRWC開催都市としての立候補構想の検討を住民と深めることが、行政にとって技術的に非常に困難であったことを指摘した。
 本稿は、震災復興途上におけるスポーツ・メガイベント招致プロセスの実相を行政の視点から明らかにしたものの、RWC釜石開催をとらえる期間ならびに視点において限定的であるといえる。今後は、RWC開催が釜石市に及ぼす影響をRWC開催中ならびに開催後にまで射程を延長してとらえていくことが求められる。また、スポーツ・メガイベントのステイクホルダは、グローバルレベルからローカルレベルに複層的に存在している。そのため、ステイクホルダ各々の視点から複合的に捉えたRWC釜石開催の全貌を浮き彫りにすることも次への課題となる。
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