スポーツ社会学研究
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原著論文
サーファーが環境保全を訴えるとき
―千葉県長生郡一宮町の事例から―
宮澤 優士
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2023 年 31 巻 1 号 p. 101-115

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抄録

 逃避的で抵抗的な文化として特徴があるサーフィン文化において、文化の担い手であるサーファーは積極的に社会運動を展開し、社会変革を試みてきた。
 しかし、こうしたサーファーによる社会運動をめぐって、当該地域において対立がみられる場合がある。それでは、サーファーによって環境保全が訴えられたときに、サーファーと関係者間において対立が生まれるとするならば、それは何に由来し、どのような論理の相違からなるものなのか。
 本稿では、サーファーによる環境保全運動をめぐって、サーファーと地域住民や専門家との間でどのような議論が交わされ、どのような結果に至ったのかを探り、サーファー自身による運動の困難性と可能性を示す。その際、千葉県長生郡一宮町を事例地とし、サーファーによる署名運動がきっかけとなって開催された「一宮の魅力ある海岸づくり会議」を取り上げる。
 サーファーによる社会運動の分析から導出されるのは、サーファーが地域における環境保全を訴えるときに発生する困難性である。サーファーは、自らのサーフィン経験を契機とし環境保全運動を展開するものの、サーフィン文化が抵抗文化と接続してきた歴史的背景、そして海への没入がもたらす身体感覚からなる経験知によって、地域住民や専門的知識とは二重にずれたところに位置づけられている。こうして、サーファーはずれたところへ位置づけられることによって、地元住民や専門家から主張が聞き入れられ難い存在となった。
 加えて、「遊び」による身体経験を契機としたサーファーによる社会運動によって、専門家の知見が更新される可能性も確認できる。本稿は、サーファーが自らの身体経験を契機とした社会運動を展開したときに見られる、サーファーが抱える困難性と、揺れ動く科学知に関わりうる可能性を明らかにしたことに意義がある。

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© 2023 日本スポーツ社会学会
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