スポーツ社会学研究
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原著論文
プロ・スポーツクラブにおけるボランティア空間と公共性
—Bリーグ試合運営のフィールドワークから—
木村 宏人
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2023 年 31 巻 2 号 p. 77-91

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抄録
 多くのプロ・スポーツクラブは試合開催時にボランティアの協力を得ている。クラブのボランティアは自発的な市民として位置づけられ、かつては商業的なシステムの変革につながる市民クラブの設立主体として、期待的に論じられたこともあった。しかし現在多くのボランティアは経営に参画することがないまま試合運営を補助する役割を担っている。プロ・スポーツクラブのボランティア活動を市民が担うことの社会的意味を改めて考える必要があるだろう。
 本稿はR. D. Putnamの社会関係資本論を手がかりに、市民的な公共性の観点からプロ・スポーツクラブのボランティア活動を考える。Putnamの社会関係資本論によれば、様々な社会的亀裂を包含する橋渡し型のネットワークにおいてこそ、円滑な民主主義の運営に必要な、他者との協力を可能にする公共的態度が涵養されるという。本稿の目的は、プロ・スポーツクラブの試合運営を補助するボランティア空間がどのようなものなのかを具体的に記述すること、およびそのボランティア空間が見知らぬ他者と出会う場となり、公共的態度を生み出す機能を持ちうるのかを明らかにすることである。
 プロ・バスケットボールクラブのボランティア空間のフィールドワークを行った結果、ボランティア空間は、普段の生活では接点のない人々が出会う空間となっていたことがわかった。ボランティア空間はクラブのファンとファンではない人を包含しており、両者の葛藤や協力を通じて公共的態度を醸成する機能を持ちうることが明らかになった。つまり、両者の混在によって生じる情報の伝播によってボランティア実践に変化がもたらされるとともに、Putnamが公共的態度として重視する一般的互酬性規範と一般的信頼が醸成されていた。最後に、プロ・スポーツクラブのボランティア空間が持つ、その公共的態度を生み出す制度的基盤について議論した。
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