スポーツは社会にとって有用であると国家法でもその推進が謳われる一方で、最も尊重すべき身体・生命への重大な危険も内包する活動でもある。この課題に私たちはいまどのように向き合ってゆくべきなのであろうか。本稿は、このリスクとスポーツについて、主としてスポーツ法学の立場から現状や社会の動向そして安全への意識の変化などをふまえ、検討してきた。その結果以下のことが言える。
1) スポーツ活動については、身体・生命に対する侵害の可能性があるとしても、そのことを容認して、その価値を享受することを望もうとするかどうかは、個々人の自己決定権の行使の範囲にあり、自己責任を原則とすることが前提となる。
2) 法的な判断からも、近年は被害者の救済を重視し、責任を加害者、管理者等にも問うとする要請が増し、危険引き受けの法理にも変化が生じている。
3) 医科学的な領域からの新しい知見も発信され、問題提起がなされるなど社会全般からの安全に対する要請も高くなっている。
4) 人々の意識も変化するなかで、「市民法秩序の許容」の観点が重要である。
5) スポーツ法学が目指すところは、公平・公正とまさに安全をもとにしたスポーツ環境の構築である。したがって、事前、過程、事後の具体的なリスクマネジメントによって、責任を分散しつつ対策を進めてゆくことによりリスクを削減し、活動を守ることが重要である。
6) 新たなアイデアや工夫によってリスクを軽減できることは多いので、そのスポーツの本質を逸脱しない施設やルールの改善は大いに検討すべきである。
7) スポーツ活動の意義とそのリスクの軽減とのバランスを図ること、すなわち自己決定権の尊重と責任の分散により、今後のスポーツは社会に認められ、続いてゆくだろう。
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