スポーツ社会学研究
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31 巻, 2 号
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原著論文
  • —運動部活動経験が体育教師志望に与える影響の分析から—
    三上 純
    原稿種別: 研究論文
    2023 年 31 巻 2 号 p. 59-75
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/26
    [早期公開] 公開日: 2023/06/23
    ジャーナル フリー

     本稿の目的は、固定的なジェンダー観の形成に寄与する運動部活動文化に着目し、それが体育教師志望といかに結びついているのかを、統計分析によって明らかにすることである。先行研究の概観から以下の3つの仮説を設定し、その検証を分析課題とする。①体育教師志望に与える様々な運動部活動経験の影響は、運動部顧問志望に媒介されて生じる。②運動部活動を通じた男性体育教師との結びつきが、体育教師志望に影響する。③運動部活動における性に関わる指導者の言動や仲間同士のコミュニケーションが、体育教師志望に影響する。
     本稿では、日本の中学校・高校に通っていた大学生・大学院生を対象に、2021年2~3月(以下、1期調査とする)および同年4~7月(以下、2期調査とする)に実施したオンラインのアンケート調査によって得られたデータを使用する。1期調査では、筆者の知人や大学に勤務する教員を通じてEメールまたはLINEで、約1600人に回答リンクを配布し397人から回答を得た。2期調査では、大学に勤務する教員が受け持つ授業を通じて約3000人に回答リンクを配布し、755人から回答を得た。本稿では2つのデータを統合して使用する。
     体育教師志望を従属変数とするロジスティック回帰分析と、運動部顧問志望を媒介変数とするKHB法による媒介分析の結果、仮説①および仮説②は支持されたものの、仮説③は支持されなかった。しかし、体育教師志望を強く規定する運動部顧問志望を従属変数として多項ロジスティック回帰分析を行った結果、運動部活動における性に関わる指導者の言動や仲間同士のコミュニケーションは運動部顧問志望の規定要因となることが示された。このことから、固定的なジェンダー観の形成に寄与する運動部活動での指導者や仲間との関係性が、運動部顧問志望を経由して体育教師のジェンダー観に影響すると考えられた。

  • —Bリーグ試合運営のフィールドワークから—
    木村 宏人
    2023 年 31 巻 2 号 p. 77-91
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/26
    ジャーナル フリー
     多くのプロ・スポーツクラブは試合開催時にボランティアの協力を得ている。クラブのボランティアは自発的な市民として位置づけられ、かつては商業的なシステムの変革につながる市民クラブの設立主体として、期待的に論じられたこともあった。しかし現在多くのボランティアは経営に参画することがないまま試合運営を補助する役割を担っている。プロ・スポーツクラブのボランティア活動を市民が担うことの社会的意味を改めて考える必要があるだろう。
     本稿はR. D. Putnamの社会関係資本論を手がかりに、市民的な公共性の観点からプロ・スポーツクラブのボランティア活動を考える。Putnamの社会関係資本論によれば、様々な社会的亀裂を包含する橋渡し型のネットワークにおいてこそ、円滑な民主主義の運営に必要な、他者との協力を可能にする公共的態度が涵養されるという。本稿の目的は、プロ・スポーツクラブの試合運営を補助するボランティア空間がどのようなものなのかを具体的に記述すること、およびそのボランティア空間が見知らぬ他者と出会う場となり、公共的態度を生み出す機能を持ちうるのかを明らかにすることである。
     プロ・バスケットボールクラブのボランティア空間のフィールドワークを行った結果、ボランティア空間は、普段の生活では接点のない人々が出会う空間となっていたことがわかった。ボランティア空間はクラブのファンとファンではない人を包含しており、両者の葛藤や協力を通じて公共的態度を醸成する機能を持ちうることが明らかになった。つまり、両者の混在によって生じる情報の伝播によってボランティア実践に変化がもたらされるとともに、Putnamが公共的態度として重視する一般的互酬性規範と一般的信頼が醸成されていた。最後に、プロ・スポーツクラブのボランティア空間が持つ、その公共的態度を生み出す制度的基盤について議論した。
  • —ある日本プロ野球選手のBlack Lives Matter運動に関するソーシャルメディア投稿を事例に—
    有賀 ゆうアニース
    2023 年 31 巻 2 号 p. 93-106
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/26
    ジャーナル フリー
     近年、ソーシャルメディアの普及を背景として、人種的マイノリティのアスリートによるレイシズムへの抗議が様々な競技で顕在化している。先行研究では、アスリートたちがアスリートとしての立場とアクティビストとしての立場の間でのジレンマに、またときには大規模なバックラッシュやファンとの葛藤に直面することが報告されてきた。本稿では、こうした状況のなかで例外的に反レイシズムに訴えつつ好意的な支持を広く集めたとされる、あるアフリカ系のプロ野球選手のBlack Lives Matter運動に関するTwitterの投稿を事例として取り上げる。人種的マイノリティとしての背景を持つプロアスリートがこうした困難な状況にいかに関与しているのかを分析する。テクスト上の表現を通じて人種や人種主義をめぐるアイデンティティや行為がいかに産出されるのかという視座からその投稿とそれに対するリプライを分析し、以下の知見を得た。彼は人種差別として理解されうる経験を物語りつつ、それが誰かへの非難として受け止められないように自らの物語を慎重にデザインすることで、レイシズムへの抗議とファン、ユーザーとの協調的関係の維持という困難な2つの課題を同時に追求していた。そしてその投稿に対するリプライも、一方では反差別の観点からアスリートへの共感や同調、他方ではスポーツの観点からアスリートへの賛美・応援にそれぞれ分岐することで、アスリートとオーディエンスたちの間で複合的な同調的関係が現出していた。以上の知見は、日本のスポーツ界において人種的マイノリティとしての背景をもつアスリートがいかなる課題に直面し、それを達成しようとしているのかを明らかにしている点で、スポーツ社会学研究へ貢献する。
  • 小石川 聖
    2023 年 31 巻 2 号 p. 107-121
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/26
    ジャーナル フリー
     2018年のサッカーワールドカップで、VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)が導入され話題となった。一方で、日本ではインスタント・リプレイを見ること自体はスポーツ中継には当たり前の光景になっているばかりか、1969年の大相撲では既にビデオ判定が導入された。本稿では、ビデオ判定導入に至る過程がメディア経験の変化でもあったことに着目し、メディア論を用いて「リプレイ」にアプローチする。
     スポーツ中継の歴史の中で1964年の東京オリンピックは、「テレビ・オリンピック」と称され、放送技術の革新が喧伝された大会であり、スローモーションVTRもそのひとつであったことがこれまで明らかにされている。しかし、VTR導入以前には、リプレイは写真や映画フィルムによって可能になっていた。本研究の目的は、そうしたリプレイ技術の開発・導入の過程を具体的に明らかにすることである。
     理論的には、メディア論における技術の社会的構成という立場から分析を行う。この理論は、技術の開発・導入に直接携わる科学者や技術者だけでなく、一見すると無関係に見える人びとに注目する。放送技術の社会的構成を問う本研究の場合は、テレビの演出に関わる制作陣やアナウンサー、解説者といった人びとを対象とする。技術の開発・導入状況と、そうした人びとのリプレイへの解釈を明らかにするために、当時の放送技術や放送文化の専門誌を資料として分析を行う。
     結論として、VTRの導入はそれ以前の技術の混在した状況をまとめあげる転機となったが、リプレイへの期待はVTR導入以前から存在していた。リプレイは、スポーツ中継の新しい演出として模索され、スポーツの専門性への視聴者の要求に応えることができる技術として期待されたのである。一方で、VTRは「機械の眼」の威力を人びとに実感させた技術でもあり、東京オリンピック後には大相撲のビデオ判定につながっていったのである。
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