スポーツ社会学研究
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原著論文
学習マンガとハイパー・メリトクラシー
—努力主義の持続と変容—
福島 智子
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2024 年 32 巻 1 号 p. 87-101

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抄録

 本稿の目的は、現代の若者が地位上昇を見込めないという閉塞感を抱えるなかで、学業以外の分野での努力や成功を描いた学習マンガにおいて、個人の出自と努力の影響がどのように描かれているかを明らかにすることである。
 1960年代には、スポ根マンガが全盛期を迎え、愚直な努力が重要視されたが、80年代になるとそのような努力は嘲笑の対象となり衰退した。2000年代以降のマンガでは、現代の若者が抱える閉塞感を背景に、主人公の才能や機転に価値が置かれる傾向がみられるとされる。
 現在連載中のスポーツや芸術をテーマとした学習マンガ『ダンス・ダンス・ダンスール』と『ブルーピリオド』を選定して、分析した。主人公は高いコミュニケーション能力を持ち、自らの意志で努力を選択する姿勢が描かれている。
 21世紀の学習マンガにおいても、衰退したといわれる努力主義が継続している一方で、努力の仕方や評価される努力については変化がみられた。他者から強制された努力は否定され、自ら主体的に(可能なら楽しい)努力を選択することが肯定されている。さらに主人公は、コミュニケーション能力を重視する学校の評価文化(ハイパー・メリトクラシー)で上位に位置づけられると同時に、努力の対象を自ら選択するにあたり、同調圧力を否定することも求められている。
 本人の主体的な選択が強調されることで、そもそも選択肢がなかった閉塞的な状況は不可視化される結果となる。勝ち組より負け組の方が努力主義を内面化しやすいとされることを考慮すると、これらの学習マンガは現状が自分の努力の結果だと肯定する自己責任論にいきつくのは容易だろう。

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