スポーツ社会学研究
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原著論文
  • —努力主義の持続と変容—
    福島 智子
    2024 年 32 巻 1 号 p. 87-101
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/04/30
    [早期公開] 公開日: 2023/12/20
    ジャーナル フリー
     本稿の目的は、現代の若者が地位上昇を見込めないという閉塞感を抱えるなかで、学業以外の分野での努力や成功を描いた学習マンガにおいて、個人の出自と努力の影響がどのように描かれているかを明らかにすることである。
     1960年代には、スポ根マンガが全盛期を迎え、愚直な努力が重要視されたが、80年代になるとそのような努力は嘲笑の対象となり衰退した。2000年代以降のマンガでは、現代の若者が抱える閉塞感を背景に、主人公の才能や機転に価値が置かれる傾向がみられるとされる。
     現在連載中のスポーツや芸術をテーマとした学習マンガ『ダンス・ダンス・ダンスール』と『ブルーピリオド』を選定して、分析した。主人公は高いコミュニケーション能力を持ち、自らの意志で努力を選択する姿勢が描かれている。
     21世紀の学習マンガにおいても、衰退したといわれる努力主義が継続している一方で、努力の仕方や評価される努力については変化がみられた。他者から強制された努力は否定され、自ら主体的に(可能なら楽しい)努力を選択することが肯定されている。さらに主人公は、コミュニケーション能力を重視する学校の評価文化(ハイパー・メリトクラシー)で上位に位置づけられると同時に、努力の対象を自ら選択するにあたり、同調圧力を否定することも求められている。
     本人の主体的な選択が強調されることで、そもそも選択肢がなかった閉塞的な状況は不可視化される結果となる。勝ち組より負け組の方が努力主義を内面化しやすいとされることを考慮すると、これらの学習マンガは現状が自分の努力の結果だと肯定する自己責任論にいきつくのは容易だろう。
  • 大相撲における公的言説と力士の実践に着目して
    松山 啓
    原稿種別: 研究論文
    2024 年 32 巻 1 号 p. 103-116
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/04/30
    ジャーナル フリー

    本稿は、大相撲の世界における八百長をモラルの視点から読み解く試みである。八百長とは力士が相撲の勝負にわざと負ける行為を指す用語である。八百長は、江戸時代以来とされる長い歴史のなかで、様々な出来事を通じて行為のモラルが問われてきたといえる。本稿では、そうした八百長にまつわる公的な言説としての道徳的価値観の形成過程や、力士たちによる八百長の現実的な動機に着目し、道徳に関わる人類学的研究を参照しながら、八百長のモラルの多元性や複数性を考察した。これらの視点は、①大相撲の制度と実践の相互変化に関わる動態としてのモラリティ、②力士間の人間関係の基盤となっている道徳的論理、に注目することを意味している。前者については、明治時代における近代化とナショナリズムの潮流に伴い創造された「武士道論/相撲道」というモラルの影響と、興行相撲に関わる一連の制度改革によって、八百長が否定され、排除された過程を概観した。後者では、八百長に関する先行研究においてたびたび指摘されてきた、力士の「互助関係」を再検討し、交換と互酬性の論理に還元されない異なるモラルに基づく八百長の多義性を提示した。

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