スポーツ社会学研究
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原著論文
八百長にまつわるモラリティの諸相に関する一考察
大相撲における公的言説と力士の実践に着目して
松山 啓
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2024 年 32 巻 1 号 p. 103-116

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抄録

本稿は、大相撲の世界における八百長をモラルの視点から読み解く試みである。八百長とは力士が相撲の勝負にわざと負ける行為を指す用語である。八百長は、江戸時代以来とされる長い歴史のなかで、様々な出来事を通じて行為のモラルが問われてきたといえる。本稿では、そうした八百長にまつわる公的な言説としての道徳的価値観の形成過程や、力士たちによる八百長の現実的な動機に着目し、道徳に関わる人類学的研究を参照しながら、八百長のモラルの多元性や複数性を考察した。これらの視点は、①大相撲の制度と実践の相互変化に関わる動態としてのモラリティ、②力士間の人間関係の基盤となっている道徳的論理、に注目することを意味している。前者については、明治時代における近代化とナショナリズムの潮流に伴い創造された「武士道論/相撲道」というモラルの影響と、興行相撲に関わる一連の制度改革によって、八百長が否定され、排除された過程を概観した。後者では、八百長に関する先行研究においてたびたび指摘されてきた、力士の「互助関係」を再検討し、交換と互酬性の論理に還元されない異なるモラルに基づく八百長の多義性を提示した。

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