スポーツ社会学研究
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性的マイノリティ当事者が組織化する草の根スポーツ活動
“ゲイバレー” を事例に
高尾 将幸谷木 龍男秋吉 遼子
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2024 年 32 巻 2 号 p. 39-52

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抄録
本稿の目的は、インクルーシヴ・マスキュリニティ論を中心としたマスキュリニティ研究の近年の動向を踏まえつつ、日本における性的マイノリティ自身によって組織化されている草の根レベルのスポーツ活動の事例としてゲイ男性当事者が自ら組織化しているバレーボール(ゲイバレー)の実践を取り上げ、その活動と歴史の一端を詳らかにするとともに、当事者がこの実践に対して抱いている意味や、そこで取り結ぶ関係性のあり方を探索的に明らかにすることであった。
調査方法としてゲイバレーに参加する当事者への半構造化インタビューを実施し、音声データが作成したトランスクリプトをデータとして用いた。
当事者たちがゲイバレーに見出している意味として、二つの点を指摘した。一つは、ゲイバレーは日常的な異性愛規範から逃れる安全な場として経験されていた。しかし「ノンケ」の参加が認められた大会の存在が示しているように、非当事者を排除するものではなかった。二点目として、ゲイバレーではパートナー探しに関わる選り好みの視線が薄らぎつつも、ゲイ男性当事者同士のつながりが担保されるという、独特なつながり方を当事者に可能にしていた。
最後に、インクルーシヴ・マスキュリニティ論との関係でゲイバレーの実践について考察した。ゲイバレーは、棲み分けによってヘテロノーマティヴな空間を温存する場合と、「ノンケ」の人びとを巻き込みつつマスキュリニティのあり方を相対化する可能性を持つことを示唆した。また、現在の若い世代のプレーヤーがゲイバレーの当事者以外の人びとへの可視化を期待していることから、ある程度、日本において文化的ホモフォビアが減少しつつあることを示した。さらに、ゲイバレーには強い競技志向が存在するという意味で主流の近代スポーツに同調しているが、他方で「ノンケ」の参加が認められた大会や即席チームによる東京以外の地域で開催される大会への参加など、多様な関り方に開かれていることを示した。
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