スポーツ社会学研究
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ミクローマクロ・リンクのためのエスノグラフィー
J. Sugden『Boxing and society: An international analysis』を事例として
池本 淳一
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2003 年 11 巻 p. 128-133,156

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抄録

近年、スポーツ社会学において、マクロな理論的視点から引き出された問題をスポーツの事例研究によって考察する、といった新たな傾向が存在する。しかしながら、その多くが歴史的文献を用いた研究であり、エスノグラフィーを用いた研究は少ない。
このような状況の中で、J. Sugden のボクシング研究は、マクロ-理論的視点からの問題をエスノグラフィーを用いて考察している、数少ない研究の中のひとつである。本論文は、彼の主著『Boxing and society: An international analysis』を参考に、スポーツ社会学におけるミクロ-マクロリンクのための方法論を提示することを目指している。
本論文においては、以下のことが考察される。
第一に、本論文は、彼が最初に手がけた、アメリカ・ゲットーにおけるプロボクシングクラブのエスノグラフィーが、当時のボクシング研究上の問題に適切に答えていることを指摘する。
第二に、本論文は、彼が次に手がけた北アイルランド -そこはセクト主義的抗争に満ち溢れた地である-におけるアマチュアボクシングクラブのエスノグラフィーは、Sugden のマクロ-理論的問題 -国家無き社会における秩序維持について- に適切に答えていることを指摘する。
最後に、本論文は、我々がマクロ的な問題関心に基づいてエスノグラフィーを用いるさいには、コンテキストの異なるいくつかのエスノグラフィーを比較検討することが不可欠である、ということを示す。
以上の作業を通じて、本論文は、スポーツ社会学においてエスノグラフィー的手法によるミクロ-マクロリンクを達成するための、ひとつのモデルを提示する。

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