スポーツ社会学研究
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カヌークラブによる流域ネットワーク形成とその可能性
新たな河川環境整備のための場の形成に向けて
前田 和司
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1997 年 6 巻 p. 17-29,124

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抄録

林業政策論における「流域管理システム」の考え方は, 河川の上・下流ネットワークによる木材流通経路の確保と,「水」および森林の公益的機能を接点とした下流の都市とのネットワークによって, 中山間地域問題の解消を目指したものである。北海道北部の天塩川は, 河川改修事業の遅れから, 自然のままの姿を多く残す川であり, アウトドア・アクティビティ, とりわけカヌーの実践の場を提供し, 流域と都市との交流を促して, 自然を基盤とした観光による活性化の可能性を持っている。その実現のためには, 流域の自治体間の連携が必要である。しかし, 分村によって成立した歴史をもつ各自治体は独立性が高く, 近年まで広域的な行政上のネットワークを形成しにくかった。1980年代末から流域内に次々と成立したカヌークラブは, 天塩川とカヌーを媒介に, 草の根のカヌークラブネットワークを形成してきた。このネットワークは, 自然保護団体, 地域おこしグループ, 河川管理者である北海道開発局, 土木現業所, さらに各自治体とも連携し, 住民レベルから行政レベルまでの多種多様な組織による, より広範な「流域ネットワーク」へと展開してきている。そして, 天塩川の自然を観光資源とする流域単位の活性化事業が動き出している。
本稿では, この流域における各カヌークラブの成立過程およびネットワーク化のプロセスを明らかにし, カヌークラブネットワークが「流域ネットワーク」へと展開していった過程を明らかにする。そして「流域ネットワーク」の現状と課題を, カヌークラブネットワークとの関係の中で明らかにする。

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