北アイルランド問題を作り出してきた, ナショナリスト, ユニオニスト間の見解の相違は根深いものがある。政治的解決になかなか進展を見ないという現実を, この2つのコミュニティを分断してきたファクターに帰結させることは, 一見端的に思えるが, 大方, 正確な把握と言えるであろう。
本研究ノートにおいては, この分断に関して, スポーツが関与した重要性及び, それぞれのコミュニティが, その個別性を表現する手段としてスポーツを利用してきた過程の概要を明らかにしようとしている。そして, 社会において重要な役割をしているシンボリズムが, この過程から派生している。
3つの異なったスポーツが, この文化現象を例示するのに選択された。つまりGAA (Gaelic Athletic Association), ラグビー (ユニオン), サッカーである。これらのスポーツは全て, アイルランド中で (北も南も) プレーされていて, 双方の文化, 歴史において, 独特な形で絡み合っている。
GAAは, 伝統的に, ナショナリストのスポーツであり, 彼らの文化的アイデンティティを強化する手段として使われてきた。この目的は, あまりにも完壁に達成されてきたので, ユニオニストの伝統においては, 自分たちのコミュニティを裏切ることなしに, GAAをプレーすることは不可能に等しかった。ラグビーは, その異なった信条や伝統にも関わらず, 表面的には南北統一チームをつくり出してきた。しかし, 実際には, これは現実を反映しているとは言えない。つまり, ナショナリストは, 自分たちのコミュニティに逆らうことを恐れて, ラグビーをプレーすることを避けてきたからである (特に北では)。サッカーは, 2つの代表チームと組織を有し, より現実的方法で, 実際の社会状況を反映していると言えよう。
別々の教育システムが, 社会の文化的分断を継続させているキー・ファクターであることに着目する必要性があり, ある意味では, セカンダリー・スクールにおけるスポーツ種目の選択が, 特に北アイルランド社会に根づいた文化的多様性を強化する働きをしてきた。
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