スポーツ社会学研究
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東京高師と日本のスポーツ
森川 貞夫
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2000 年 8 巻 p. 24-49,126

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抄録

東京高等師範学校-東京文理科大学-東京教育大学につながる同窓組織「茗渓会」は, 戦前戦後を通じて日本の教育界に有数の人材を輩出したばかりでなく, 日本のスポーツの普及・発展にも大きな役割を果たした。しかしそれは同時に天皇制ファシズムの下では国家的イデオロギーと結びついたスポーツ政策と一体のものであった。しかも東京高師設立の目的が師範学校校長および教員を養成することであったこと, また実際に卒業生の大半が戦前においては全国の中等学校・師範学校および教育行政の中枢にあったためにかれらは, その国家的イデオロギーを率先実行する「下士官」の役割をになわざるを得なかった。
したがってスポーツに限ってみても日本のスポーツの普及・発展に貢献すると共に戦前のスポーツによる国威発揚・体力向上・思想善導政策に積極的に加担していくという東京高師出身者の歴史的・社会的役割は避けがたいものであった。しかしその体質は戦後のスポーツの民主化の際に「戦争責任」や「戦争反省」を深く問うこともなく, 無批判に体制に順応し自らが積極的に従属していくというものであり, 今なおその体質が問われるところである。このような体質はスポーツ界にあっては支配的ではあるが, すべての者がそのような立場に立つというわけではない。それを分けるのは東京高師出身者の社会的階層が丸山真男のいうところの中間層の, 主として「第一類型」に属しているところから来るものであり, 国民大衆の側につくのか, 支配的権力の側につくのかの「動揺」はたえずつきまとうものであり, その選択は個人の主体形成に関係する。しかもそれはまた内部での「凌ぎ合い」に加えて, 外部での茗渓外出身者との「覇権争い」もあり, たえず自己矛盾に苛まれざるを得ないものである。

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