抄録
症例は66歳, 女性. 55歳時出血傾向を主訴に当科を受診し再生不良性貧血と診断されたが, 治療抵抗性であり輸血療法にて管理していた. 1994年7月, 消化管出血のため入院. 糖尿病性網膜症の有無を確認するため施行した眼底所見では左網膜中心静脈血栓症による出血が指摘された. 検査成績上, ループスアンチコアグラント (LA) 陽性であったが, 抗核抗体, 抗カルジオリピン抗体を含めその他の自己抗体は陰性であった. 本例における網膜中心静脈血栓の原因としては, 剖検所見で明らかな硬化性病変を認めず, LAによる凝固亢進状態が血栓の原因と考えられた. Thrombin generation inhibition assayによるLA対応抗原検索では, 陰性リン脂質とCaイオン存在下でヒトprothrombinと結合する抗体が検出され, 本例のLA発現機序としてウイルス感染や頻回輸血による二次性の免疫応答より自己免疫機序の関与が考えられた.