抄録
2症例の血友病A患者に認められた第VIII因子 (FVIII) Cドメイン内のミスセンス変異 (R2159C, R2209Q) のタンパク質発現実験を行い, 変異FVIIIの細胞内合成・分泌動態を検討した. 変異FVIII遺伝子を導入したプラスミドをCOS-1細胞にトランスフェクションし, 放射性同位元素 (35S-メチオニン) を用いたパルス-チェイス実験を行った. 標識FVIIIの免疫沈降の後, SDS-PAGE解析を行った. いずれの変異FVIIIも野性型と同様に細胞内で合成されたが, 4時間後には細胞から著減していた. しかし, 細胞培養液中への分泌は, R2209Qでは確認されず, R2159Cでは低下していた. R2159Cの細胞培養液中に蛋白分解酵素阻害剤 (ALLN) を添加したところ, 用量依存性に細胞内のR2159Cの蓄積は増加したが, 変異FVIIIの分泌は改善されなかった. この2症例の変異FVIIIは細胞内で合成されるが, 分泌は阻害され, 引き続き細胞内分解が生じていることが示唆され, これが血友病Aの発現型をもたらしていると考えられた.